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はじめてKREVAを見たのは、渋谷の路上だった。駅の改札を出ると、ハチ公前には、大音量のビートが鳴り響いていた。「音を下げなさい!」と警官が、これまた大音量で注意を促していて、それがさらに渋谷スクランブル交差点を行き交う人々をヒートアップさせていた。内容はもう覚えていない。ぶつかり合う音の波に、その頃人々の関心を集めていた時事ネタを乗せて、「言いたい放題面白いこと」を叫んでいる男がいた。一体何が起こっているのかわからなかった。それが何であるのか突き止めたいという好奇心を抑えつつ、しぶしぶ目的の書店に向かっていた私は、渋谷109-2の前で、自分のジレンマの原因を見つけた。警官に注意されつつも、何かを為そうとしている男がいた。それがKREVAだった。
最初見た時から、KREVAは、私にとってカルチャーショックだった。得体の知れない、そして好奇心を刺激して止まない、私の想像の範囲を遥かに超えたところを上昇し続ける存在。ライブもイベントも何度通っても、必ず満足して帰って来ることができた。しかし、あの、渋谷の路上で受けた衝撃を、もう二度と味わうことはないと思っていた。
今日までは。
KREVA CONCERT TOUR ’07 K-ing 11月24日 ノンゲストデー
開演は18:00だった筈なのに、まだ10分前の筈なのに
アリーナに滑り込んだ私の目の前にはKREVAがいた。
ステージ上に組まれたDJブース状のセット
バックの大画面には、DJ908の文字
愛してやまないダイナマイトやFG Night等のレギュラーイベントでかつて見ることのできた、DJとしてのKREVA
もう見ることはないかと思っていたその姿が、こともあろうに武道館のステージ上に現れた。
髪も結わず、衣装も着ずに、♪くれば~ と歌われている曲をそこだけスクラッチしたり、トトロのテーマに合わせてひとり芝居を展開したり
新たな盟友となったブラストランページ 千晴のビートをかけると、ステージ上の大画面に、力いっぱい客を煽る千晴の姿が映し出される。
♪前方へ~ と繰り返されるリリック
大映しになる初々しい千晴の笑顔
これは、K-ingツアーそのものに対しての大掛かりなアンコールであり
その自由奔放なスタイルに王者の余裕と次の展開への鋭い視線を感じることとなった。
暗転の後、髪をまとめて、ヘッドセットのマイクを装着、黒のスーツで現れたKREVA
それでも、「客入れDJ」の余韻を残し、DJブースの中を大げさに反復横跳びで移動
笑いを取りつつ、おそらく自分もリラックス 大きなジャンプの前の余力を溜めている。
大舞台でたったひとりで全てを為そうとすることから来るはかりしれない緊張と、それを自分で緩めようと、会場に笑顔をもたらそうと、繰り出される渾身のギャグ
それにしても一体今まで誰が武道館であえてひとりで何もかもやろうとしただろうか?
まさかの選曲 「アンバランス」に観客はあるひとつの方向を見出し、一歩を踏み出す。
前人未到への第一歩だ。
「ビート俺!ラップ俺!こすれ俺! 見せつけてやるぜ!」のセリフで幕が上がる。
愛・自分博の「STUDY OF 江戸川」を彷彿とさせる「はじめて物語」
呉萬福登場の、「国民的料理」
ハートマークのエプロンを身につけ、イントロの切り身をミキサーにかけ、サンプラーで味付けるKREVA
意味深ツアー 「ダブルアンコール 希望の炎」の拡大バージョンだ。
イベントでDJをする時のKREVAは、かけている曲の解説をするのが好きで
でも、集まっている女の子達は、そんなことは聞いていなくって
肝心の話にリアクションがなかったりして
ちょっと、いや、かなりつまらなそうな顔をしているKREVAを私は憶えている。
これは、KREVAがずっとやりたかったことなのだ。
そして、私がずっと見たかったものは、これだったのだ。
途中機材の不調によって、「心折れそうだ」と、でかいひとりごとを呟くKREVA
「一番難しいのは、ラップしながらMPCを叩くっていう地味なところなんだけれど伝わっているかなぁ」とステージ上でマイクを通してぼやきながら、本当にたったひとりで機材を調整し続けるKREVA
マイクはハウリングを起こし、復調するまでひたすら単純なビートを刻むシーケンサー
かつて、KREVAはインタビューで、
「ビートを単純にした方が、ラップのデカいノリが生きる」と語っていたが
万全でない音響の中で、たったひとりで、ラップし歌うこのライブが
会場を埋めるオーディエンスの大きなうねりをより際立たせていると感じたのは私だけだろうか?
昨日のゲストデーライブで、草野マサムネ氏の歌声に酔った聴衆のひとりである私だが、
K-ingでずっと歌われてきたクレヴァージョンの、「くればいいのに」を聴きながら
KREVAは草野マサムネを凌駕した。と感じていた。
遥かに大きなライヴァルだった筈の、草野氏 その腹に飛び込み、バリバリとその中から腹を食い破り、オリジナルを上回る鳴りの良さで会場に響き渡る KREVAの歌声
ちいさな「お弁当箱」状の、MPCを身につけステージ上を動き回り、「ひとりでできた」を証明してみせるKREVA
でも、「練習に付き合ってくれたスタッフの皆、ありがとう」
「シングル曲は全てやる」とし、「アグレッシヴのビートで」と新たな形で、披露される最後の切り札 音色 と 希望の炎
「泣きそうだ」と言いつつも、サングラスと帽子を身につけ伊達な姿でステージを去るKREVA
これが、私の見たかったものです。
KREVA カワイイ~ という黄色い声を蹴散らしてくれる、KREVAの真骨頂です。
最高のひとつなのは間違いないと自ら歌うKREVAだけれど
最高なんて、てっぺんのひとつに過ぎないんでしょう?
その遥か上空を自由に滑空するKREVAの姿を目に焼き付けることができて
ファンのひとりとして本当に幸せだと思っています。
武道館でライブすることがアーティストの格を決めるのではなく
武道館で偉業を成し遂げるから、そこでライブすることが伝説となるのです。
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