『源氏物語』の和歌一覧☆ | 【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳

『源氏物語』の和歌一覧☆

 

【桐壺】(9首) 

 

限りとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり

 

宮城野の露吹きむすぶ風の音に小萩がもとを思ひこそやれ

 

鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな

 

いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人

 

荒き風ふせぎし蔭の枯れしより小萩がうへぞ静心なき

 

尋ねゆく幻もがなつてにても魂のありかをそこと知るべく

 

雲の上も涙に暮るる秋の月いかで澄むらむ浅茅生の宿

 

いときなき初元結いに長き世を契る心は結びこめつや

 

結びつる心も深き元結ひに濃き紫の色し褪せずは

 

 

 

【帚木】(14首) 

 

手を折りて相見し事を数ふればこれ一つやは君が憂きふし

 

憂きふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをり

 

琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける

 

木枯に吹き合すめる笛の音を引き止むべき言の葉ぞなき

 

山がつの垣ほ荒るとも折々にあはれはかけよ撫子の露

 

咲きまじる色はいづれと分かねどもなほ常夏にしく物ぞなき

 

うち払ふ袖も露けき常夏に嵐吹き添ふ秋も来にけり

 

ささがにのふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせといふがあやなさ

 

逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならば昼間もなにか眩ゆからまし

 

つれなきを恨みも果てぬ東雲に取りあへぬまで驚かすらむ

 

身の憂さを嘆くにあかで明くる夜はとり重ねてぞ音もなかれける

 

見し夢を逢ふ夜ありやと嘆く間に目さへ合はでぞ頃も経にける

 

帚木の心を知らで園原の道にあやなくまどひぬるかな

 

数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに あるにもあらず消ゆる帚木

 

 

 

【空蝉】(2首) 

 

空蝉の身を変へてける木の元になほ人柄の懐かしきかな

 

空蝉の羽に置く露の木がくれて忍び忍びに濡るる袖かな

 

 

 

【夕顔】(19首) 

 

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

 

寄りてこそそれかとも見めたそがれにほのぼの見つる花の夕顔

 

咲く花にうつるてふ名はつつめども 折らで過ぎ憂き今朝の朝顔

 

朝霧の晴れ間も待たぬ気色にて花に心を止めぬとぞ見る

 

優婆塞が行ふ道をしるべにて来む世も深き契り違ふな

 

前の世の契り知らるる身の憂さに行く末かねて頼みがたさよ

 

いにしへもかくやは人の惑ひけむ我がまだ知らぬしののめの道

 

山の端の心も知らで行く月はうはの空にて影や絶えなむ

 

夕露に紐解く花は玉鉾の便りに見えし縁にこそありけれ

 

光ありと見し夕顔の上露はたそがれ時の空目なりけり

 

見し人の煙を雲と眺むれば夕べの空も睦まじきかな

 

問はぬをもなどかと問はでほど経るにいかばかりかは思ひ乱るる

 

空蝉の世は憂きものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ

 

ほのかにも軒端荻を結ばずは露のかごとを何にかけまし

 

ほのめかす風につけても下荻の半ばは霜にむすぼほれつつ

 

泣く泣くもけふはわが結ふ下紐をいづれの世にかとけて見るべき

 

逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな

 

蝉の羽も裁ち替へてける夏衣返すと見ても音は泣かれけり

 

過ぎにしも今日別るるも二道に行く方知らぬ秋の暮れかな

 

 

【若紫】(25首) 

 

生ひ立たむありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えむそらなき

 

初草の生ひ行く先も知らぬまにいかでか露の消えむとすらむ

 

初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞ乾かぬ

 

枕結ふ今宵ばかりの露けさを深山の苔に比べざらなむ

 

吹きまよふ深山おろしに夢さめて涙もよほす滝の音かな

 

さしぐみに袖ぬらしける山水に澄める心は騒ぎやはする

 

宮人に行きて語らむ山桜風よりさきに来ても見るべく

 

優曇華の花待ち得たる心地して深山桜に目こそ移らね

 

奥山の松のとぼそをまれに開けてまだ見ぬ花の顔を見るかな

 

夕まぐれほのかに花の色を見てけさは霞の立ちぞわづらふ

 

まことにや花のあたりは立ちうきと霞むる空のけしきをも見む

 

面影は身をも離れず山桜心の限りとめて来しかど

 

嵐吹く尾の上の桜散らぬ間を心とめけるほどのはかなさ

 

あさか山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらむ

 

汲み初めてくやしと聞きし山の井の浅きながらや影を見ゆべき

 

見ても又逢ふ夜まれなる夢のうちにやがてまぎるるわが身ともがな

 

世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても

 

いはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ

 

手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草

 

あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながらかへる波かは

 

寄る波の心も知らでわかの浦に玉藻なびかむほどぞ浮きたる

 

朝ぼらけ霧立つ空のまよひにも行き過ぎがたき妹が門かな

 

立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは草のとざしにさはりしもせじ

 

ねは見ねどあはれとぞ思ふ武蔵野の露分けわぶる草のゆかりを

 

かこつべきゆゑを知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるらむ

 

【末摘花】(14首) 

 

もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいさよひの月

 

里わかぬかげをば見れどゆく月のいるさの山を誰れか尋ぬる

 

いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに

 

鐘つきてとぢめむことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき

 

言はぬをも言ふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり

 

夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさ添ふる宵の雨かな

 

晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心に眺めせずとも

 

朝日さす軒の垂氷は解けながらなどかつららの結ぼほるらむ

 

降りにける頭の雪を見る人も劣らず濡らす朝の袖かな

 

唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ

 

なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ

 

紅のひと花衣うすくともひたすら朽す名をし立てずは

 

逢はぬ夜をへだつるなかの衣手に重ねていとど見もし見よとや

 

紅の花ぞあやなくうとまるる梅の立ち枝はなつかしけれど

 

【紅葉賀】(17首)