うっすらと明けゆく朝の気配のなか。
ふと、ベッドヘッドで点滅する携帯のメール着信に気づいて手に取ると、
おまえからのメッセージに、疲れていたはずの脳細胞が一気に覚醒する。
(おはよう、ユノ。元気?同じカナダにいるなんて、偶然すぎるね^^)
いまどき、女子高生みたいな絵文字のならぶその羅列に、思わず声をだしてフッと笑ってしまう。
おはよう、ジェジュン。おまえこそ、元気でいるのか?
俺の心配よりも、ハードワークな自分にあえて身を置いているような、あいつの打たれ弱さを俺は案じてしまう。
そう、もう、おまえは以前ほど、弱くもないのにな。
「ユノ、今晩つきあってよ!」
嫌なことや、へこむようなことがあると、おまえは必ず俺を酒の席に誘った。それも笑顔で楽しそうに。
その意味がわからなくて、最初俺はとまどったものだ。
「俺、飲めないけど?」
「うん、わかってる」
「いいのか?つまんないぞ」
「いいの。だって、ずっとシラフでオレの愚痴、ユノに聞いてもらえるもん・・・・オレの気が晴れる」
「・・・・そっかぁ」
えへ♪
と、悪戯っ子のように笑うおまえに、俺はいつも甘くて。誘われるのが俺だけだってことが、なによりも嬉しかった。
それだけおまえに惹かれて、いつの間にか夢中になっていたんだってことを、
ほかでもない、おまえ自身が気づかせてくれたんだったよな。
ジェジュンア・・・。おまえはいま、誰に聞いてもらってるんだ?
とりとめもないおまえの愚痴や、悩みを。
些細なこだわりも、大きなプレッシャーも、おまえは誰にもなかなか口を割ることがないから、
みんながおまえの悩みに気づかずに、ただ明るく笑うその天真爛漫さだけに、むしろ癒されて・・・。
でも、そんな健気なおまえが、俺にだけは平気で弱音を吐いて、酒を飲んでクダを巻いて、素直に不満を並べるさまを、よく朝までみつめていたよな。
カナダの東部。おまえのいる街からは少し遠いけれど、同じこの国のこの高層ホテルの部屋から、
俺は同じ空をいま、みあげている。
真っ青な空に、おまえの眠る姿、そして目覚める様子を想い出してみる。
「また、しばらく逢えないね。電話もしないよ、会いたくなるから・・・」
ソウルの馴染みの店で、ひさしぶりにふたりで食事した後、別れ際、ほんの少し寂しそうにうつむいていたあの
夜のおまえ。
飲んでもいないのに、うっすらと染まったその頬に、俺はドキンと次の言葉を待った。
「なに、考えてんの?」
「・・・え?」
「いま、や~らし~顔してたよ、ユノ」
「そっか?・・・」
とぼけた俺に素早くキスを寄こしたおまえに、不意を突かれてまじまじと、その綺麗な顔をみつめてしまった。
こんなときこそ照れりゃいいのに、なぜかおまえは真剣すぎる眼で俺を見返すから、眼のやり場に困る。
「煽るなよ。離れられなくなるだろ」
「嘘つき。そんなわけないくせに」
「なんで?」
「さあ、なんででしょう?」
ほんの少し拗ねた口調は無意識なのかもしれないが、それがよけいに俺の胸の隙をついてくる。
「本気だよ。本当は・・・行かせたくない」
ギュッと腕の中に抱き込んで、もう一度、今度は俺からのキスのお返し。
「ユノ、こんなとこで!」
ビックリしたおまえが、俺の胸のなかで跳ねる。フワッと、甘い薫りのおまえの柔らかな髪が、俺の頬をくすぐる。
「なんだよ。今さらおまえが言うなよ。本気だって、信じないおまえが悪いんだ」
「わ・・・かった・・・から。・・離して・・・ヨ」
か細い声の息が、俺の首筋をかすめる。
「ジェジュンア・・・」
なんでまだ、怒ってるんだよ?それじゃあ、まるで立場が逆だろ?
「もう、行くよ」
先に歩きだしたその背中を追いかければ、おまえはほんの少しだけ俺を振りむかずに待って、
そのまま夜の街に消えた。
そう、ここで、さよならだ。
逢うまえから、そう約束していた。
あのまま指をからめて、もう一度深いキスをしてしまえば、冗談じゃなく本当に離れるのがつらくなる。
いつだって、こうしておまえを困らせているのは俺の方だ。
いつだって逢いたくて、片時も離れてなどいたくない。いられない。
愛して、愛して。骨の髄まで喰らい尽くして、おまえをその身体ごと喰らい尽くして、俺のものにしてしまいたい。
そんなほの暗い、抑えきれない俺の欲求に、一瞬怖気づくおまえのとまどいや抵抗さえ、俺にはたまらない誘惑でしかないって、充分すぎるほど。
おまえはイヤと言うほど思い知らされ自覚しているんだろ?
逃げたおまえの残像に、苦笑しながら誰もいない家に戻る。
明日から、いや、たったいまこの瞬間から、俺には世界は色褪せてみえ、おまえだけのための五感を研ぎ澄ませてゆく。
離れていても、聴こえるその声。その仕草、笑顔、あの匂い。
俺の腕のなかで、俺の身体の下で。
ふるえて泣きながら、『もっと・・・』と、せがむおまえの耳に絡みつく甘たるい吐息も、なにもかも。
離れているからこそ、おまえを求めて、おまえを愛して、おまえを誰より近くに感じている俺がここにいる。
「次はいつ逢える?」
なんて一度も訊かなかったおまえ。
最後に逢ったあの夜のあいつを、俺はまた想い出していた。
ジェジュンア・・・おまえの姿を想うだけで俺は!・・・。
その時、またふいに携帯が鳴り出した。
(浮気したら、許さないからね(-з-))
「うん?」
添付されていた画像に、俺は吹き出した。
そこには、ふたりでベッドインして、のん気にピースサインなんかしている俺とジェジュンが寄り添って写っていた。それも、愛し合ったあとの、裸のまんまの門外不出の特一級品だ。
「あいつめ・・・」
俺は声を出して笑った。本当に久しぶりに、笑い転げそうになった。
そして、即座に返信を打つ。
(そんな日は一生来ないよ、バカジェジュン・・・・・・・おまえに逢いたいユンホより)
絵文字もないメールだけれど、おまえへの言葉に、俺はいつも愛を添えて送っているって気づけよな。
「さて、ソウルに帰るとするか」
まるで夏真っ盛りのような、冴えたこの青空はどうだ。
真夏の季節でも、真っ白なままの、あいつの摩訶不思議な魅惑的な美しい肢体。
本人から送信された、その妖しい画像にもう一度見入るうちに、妙な気分を刺激され、
「やべぇ、アドレナリンが全開しちまうだろ」
苦笑まじりに液晶を閉じ、俺は身支度を整え、トロントの空港へと向かった。
fin
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
ユンジェがどんな携帯を持っているかとか、深く考えないで下さい(笑)
JJは常に、いま、6台は持っていますから(笑)
ユノもきっと、JJのために余分に他人には滅多にみせない携帯を隠し持っている。いや、いるだろう?
やや、絶対持っているに違いない(笑)
ま、悪戯予防のためにも、1機じゃすまない彼らの事情がありますもんね←だから、なんだ?(笑)
ユノさん、JJのあれこれ回想しているうちに、すっかりカナダの朝を迎えました・・・とさ(´0ノ`*)