俺はあいつからのメールをずっと無視していた。
バラバラに歩き始めた俺たちの道が、どこへとつながっていくのか、まるでみえなかった頃。
俺に届くあいつからのメールがいくつかあった。
そこにどんな文字がならんでいるのかみるのが怖くて、俺はみないまま放置していたのだ。
言い訳も、誤魔化しも効かない。
ただ俺は、怖かったんだ。おまえの言葉が、どんな色に染まっているのかを見極めることそのものが。
なのになぜ、今日に限ってふとそんな気になったのか。
それはどんな第6感のなせる仕業だったのか。
みなきゃと思ってついに開いたあいつからのメールには、俺の恐怖を予言する文言がたしかに綺麗に並んでいた。
ユノ、いつも返事もくれないんだね。
ユノ、もうキライだよ。
オレはユノが何を考えてるかもうどうだっていい。
もうメールもしない。
オレはユノから返事なんかもらえなくてもいい。
バイバイ、ユノ。
ユノなんてキライ。
ユノなんて知らない。
ユノなんてもう、オレは忘れたから。
バイバイ・・・ユノ?
まさか!嫌だ、ジェジュン!おまえ、本当に俺を捨てるのか?
俺と本気でわかれるっていうのか?
俺ともう逢えなくても、かまわないっていうのか?
ジェジュンア?!
大声で叫んだ瞬間、俺の眼の前にあいつが佇んでいた。
俺の部屋の真ん中で、笑って立っていた。
「ジェジュン?!おまえ・・・」
「さよならだよ、ユノ。もう終わったね俺たち。なにもかも」
少し微笑みながら去ろうとするその細い背中に、俺はあわてて駆けだす。
「行くなッ!行くな、ジェジュン、ジェジュンア!!待ってくれ。俺が悪かった。俺がおまえのことを今まで無視してきたからか?」
ジェジュン!
ジェジュン!
行かないでくれッ!
俺を、俺をまた、ひとりぼっちにするのかおまえは!
「ジェジュンア・・・」
俺の声がまるで聴こえないかのように、あいつはどんどん行ってしまう。
どんなに必死に走っても、その影にすら追いつけなくて、俺はその場で崩折れて、あいつを見失った広場の交差点で、みじめに這いつくばって泣き叫んだ。
「うわああ───ッ!!」
ハッと、眼が醒めた。
ここは自室で、俺は自分のベッドで眠っていて、あいつを追いかけた交差点などどこにもない。
夢か・・・・・・。
全身が汗でぐっしょり濡れて気持ちが悪かった。
パジャマを脱ぎすて、裸になってシャワールームに向かう。
あいつの夢をみたのは何日かぶりだった。
あいつの笑顔はそれでも、息をのむほど綺麗で、泣きたいほどに透明だった。
「クッ・・・・」
冷たい水を全身に浴びる。
その冷たさが、いまの俺の狂った頭には適温だった。
「ジェジュン・・・」
自らを慰める。
あいつがそばにいたころ、こんな行為とは無縁だった。
あいつの眼、唇。髪の毛。真っ白なうなじや、浮き上がった鎖骨。
胸の赤い飾りや、眼をみはるほどの華奢な腰のラインを、今も鮮明に思い出せる。
忘れるはずもない。
忘れられるわけがないだろう。
あんなに愛したおまえのことを。
あの妖しく、美しい真白な肢体を、思う存分に開いて、味わったあの深い官能を。
俺は一日も、あの感触を忘れられないでいる。
もしも俺とおまえの道が、ふたつに分かれたあの日よりも前に時間を戻せるなら。
俺はどんな悪魔に魂を売ってでも、命をかけておまえを守る力を手に入れてみせただろう。
そうしておまえを守ることもできたのに。
おまえはどんどん俺の遠い世界で羽ばたいていってしまった。
誰もおまえの翼をつかまえられやしないのに。
おまえは俺を振りむきもせず、高い空を、
ただ空を目指した。
そして、俺はいまもここにいる。
なあ、おまえは笑っているのか。
おまえはもう、俺が必要じゃないのか。
おまえは俺を忘れたか?
それとも、情けだけかけてくれる愛ならまだあるか?
一日のうちに少しでも、俺のことを想う時間はあるか?
ジェジュン!
もう一度、おまえの声が聴きたい。
おまえの肌に触れたい。
同じベッドで眠って、俺の腕の中で。
あたたかなおまえの吐息を感じて眠りにつきたい。
ジェジュン
ジェジュン
ジェジュン
逢いたい。