ベッドの上で、ふかふかの布団をたぐり寄せて、ユチョンはうつむきながら話してくれた。
「俺ね、ひさしぶりに昨日、彼女とデートだったんだ」
「あ、そう・・・」
驚いた。だって、そんな、いま現在つきあってる彼女がいるなんて、オレはユチョンからいっさい聞いていなかったし、デートに行くことも、もちろん知らなかった。ジュンスからも、聞いたことないぞ・・。
おまえ、いつの間にそんな彼女なんて出来ていたんだ?前に別れたガールフレンドなら、ひとりいたのは記憶にあるけど。
そんなオレの小さな疑問には気づかずに、ユチョンは自分の身に起こった出来事の顛末を話しつづけた。
「で、ね・・・。一緒にごはん食べてさ、それから彼女の部屋にほんとに何ヶ月ぶりかで久々に行ってね・・」
なんだかそこまでだと、単なる楽しいデートじゃないか?と思いつつオレはじっと、話の続きを聞いていたんだ。
「まあ、普通さあ。お互いにひさびさに逢ったら、カップルなら最後にはどうする?」
ユチョンがそこでパッと顔をあげて、ベッドの縁で座っていたオレの顔をみた。
オレは逆に質問を寄こされて、え?と我にかえて、ああ・・・カップルの最期がどうしたって?
「そりゃあ、最期には、みんな死ぬだろ?」
なんて、オレの頭に浮かんだまんまを答えてみたら。
「ちがっ!いきなりそこまでいかないってぇ、気が早すぎるわっ。」
ユチョンがビックリしてベッドのなかで飛び跳ねるから、なんだ元気じゃんと、思いつつオレは冷静に答えを訂正した。
「ああ、ごめんごめん。そこまで先じゃなかったわけか・・・」
なんだよ、ほんの冗談だって。元気がないおまえを笑わせてあげようとしたのに、逆効果でしかなかったみたいだ。は~、ガッカリ。
「もぉう、頼むよ、ジェジュン。オレの話ちゃんと聞いてよ」
「すみません」
とりあえず、謝るオレに、ユチョンはうんとうなづいた。
「だから、デートだったらさ・・・普通はその夜には盛り上がるじゃん?」
「ああ。まあね・・・」
オレはこのところもう何年もまともなデートなんてしたこともないからな。その盛り上がり方を忘れてる気がするけど、まあ、いいか。想像してみるよ。
それにしてもユチョンはデートで悩んでるのかよ。オレなんか、そのデートすら出来ない手前で、悩んでるのに・・・どうなんだ、この立ち場?
なんだかちょっぴりユチョンの悩める姿が羨ましくもあり、オレは心中複雑だった。
だが、ユチョンの話はオレが想像できるような、そんな気楽なものじゃなかったんだ。
「で、いざ、盛り上がってきて、そのう・・・ま、彼女とさ・・・・そういうムードになってさ。彼女も嬉しかったのか、俺のためにあれこれしてくれたんだ・・・」
「ああ、その彼女の部屋でだろ?」
想像すると、なんか・・・いやらしいなオレ。ユチョンのそんなあれこれな場面、オレ、みたことあったかなあ?
あるわけないか。いくらソウルメイトでも、それはなかったよなあ。
「ふ・・うん・・・・それで?どうだったわけ?」
オレが放ったそのひとことに、またユチョンがさっきみたいに、ビクッと肩を激しくふるわせて、うつむいてしまった。
え?「どうだったわけ?」が、もしかして禁句なのか?なんだ、どうしたんだよ、ユチョン。
なんと、その後しばらく彼は、無言だった。
あんまりにも沈黙が長いから、どう言おうかと考え込んでいる風にオレの眼にはみえたけれど、もしかしたら、その一瞬の現場の悪夢を、ユチョンは想い出していたのかもしれない。
・・・・・・・・・・。
「俺、実は・・・・役に立たなかったんだ・・・」
小さな、傷ついた声が、オレの耳には幻聴に聞こえた気がした。
「え?・・・へええ・・・」
なんとも間の抜けたようなオレのリアクション。ユチョンは頭を抱え込んで、口をあんぐり開けてしまった。
「へええ~じゃないだろう?そこは~?俺、マジでへこんだんだってばっ!」
こんなの、ジェジュンにしか言えないことなんだから!わかってほしいよ・・・。
「わ、悪い。なんかあんまりにも意外な話だったから、一瞬、頭が真っ白になっちゃったんだ・・・」
ユチョンが役たたづ?・・・・マジか?
「俺の方が真っ白だよ!もうこんな恥ずかしいカミングアウトまでして必死の思いで相談してんのに・・・。
なんだよ、ジェジュン。俺が昨夜、どんな気持ちでジェジュンのベッドにもぐりこんだか、聞いてもくれないでさ!」
どんどん落ち込み下降線になるユチョンの視線と声音に、オレはまずいと、早々に話を切り返した。
なるほど、わかった。
ユチョンはデートの相手の女の子を眼の前にして、肝心のモノがまるで反応しなかったと言うわけだな。
「あれこれって、手は尽くしたわけ?」
そうと決めたら、めっぽう冷静になれるオレ。
「一応、彼女なりにやってはくれたと思うんだけど・・・どうしても無理だったんだ」
それは・・・ううむ・・・どうなんだろう。なにが悪かったんだ?
「俺、再起不能なの?最近、どっかおかしかった?今もおかしいのかな。異常かな、俺?立てないんだ!」
うわあって、突っ伏してしまったユチョンを前に、オレはゆっくりと首を振る。
ユチョンが異常って、そんなわけないだろう。いたって健康な男子のはずだ。
まあちょっと、確かに呼吸器系の器官の脆弱さはあるけれど、それとアソコのパワーとは、そんな関連性はないだろうな、たぶん。
「ねえ、ジェジュン・・・ジェジュンは経験ある?こんなこと、いままであった?」
こんなもなにも、オレはまともなデートすら、もう何年もしたことがない。
だから役に立つもなにも、役に立ててないんだって、オレのそのオレ自身は・・・。まあ、男に迫られて握られた経験はあるよ、とは言わなくてもいいよな、この際。
「いや、オレはそういうのはまあ、ないけどさ・・・」
「わああっ!やっぱり、俺だけがおかしいんだ!」
「そんなわけないって。どこもユチョンはおかしくないよ。泣くなって・・・ねえ、ユチョン?」
オレのベッドの上を、布団を抱えてゴロゴロ転がりながら、相変わらず嘆いているユチョン。きっと泣いてる顔をオレにみせたくないから、そんな必死に布団を巻きこんでるんだろう。
悩んでても、可愛い奴。そんなおまえだから、オレはどうしても、放っておけなくって構いたおしたくなるんだろうね。
「ユチョン・・・。その、おまえ、女の子と遊べないときは、どうしてんの?」
「・・・・え?遊べないとき?」
布団のなかから、小リスみたいに顔だけ出してくるユチョン。
「ちゃんとやってる?」
「は?やってるって・・・自分でしてるかってこと?」
そう、それ。
だってオレたち男だから、どうしても溜まってしまうと定期的に、その溜まった物を出さないわけにはいかなくって。オレだって、自分で自分をたっぷり慰めることもあるんだから、当然ユチョンもあるだろう。
「うん・・・たまにあるけど」
「そんなときはどうなわけ?」
「それは。。。。自分でやってるときは、そりゃあ・・」
「勃★ キする?」
「ぼっ・・・・ぼ・・・・きする・・・よ、うん。」
いつの間にやら、首から胸まで布団から出た小リスが、ほんのり頬染めて、セクシーな唇を舐める仕草をひとつ。
なんか・・・気持ちいいこと、思いだしたか、ユチョン?
「いつしたの、それ?」
「え?先週の日曜とか?・・・・あ・・その前の日もしたっけ?…ううん、憶えてないや。」
よかった、ちゃんと出来てるんじゃん。
「イケたんだろう?」
「いけたよ。。自分でだもん。。。」
当たりまえでしょ?とでも言いたいのか、ユチョンは大きな原因がそこにたぶん隠されているだろうことに気づかずに、オレをじーっとみつめてきた。
さっきからさあ、なんでそう、熱い視線でオレをみてるんだ?こいつ・・・?なんか、ひっかかるものも、感じるんだけど・・・。ま、この際、そこは考えないようにして、まず、ユチョンの問題だよね。
「なるほどね。。。じゃあ、そうだな。ちょっといい?」
オレは小リスちゃんの大切そうな布団をパラリとめくって、巣穴からユチョンの腕を引いた。
「うわっ・・・ジェジュン?!」
「ちょっとさあ、ユチョン、上向いて、寝転がってみてくれる?」
「なんで?」
「オレが、してみるから」
「え?ジェジュンがなにするの?」
ユチョン。そんな不思議そ~な顔するなってば。照れるじゃん。
「だからオレが気持ちよくなることするの」
「ジェジュンが、自分で?」
「なに言ってんの?オレが、ユチョンにしてあげるんだよ。」
おまえの悩み、オレが解決しないで誰がするって言うんだユチョン?
「さあ、そこに寝て・・・」
「ジェ・・・ジェジュンっ?!・・・あっ・・・うあっ!」