労働H23重判1②INAXメンテナンス事件 | 大江ゆかりのブログ

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平成24年度新司法試験再現答案。
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平23重1②労働組合法上の「労働者」
最3判平23・4・12 INAXメンテナンス事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110419094943.pdf
<<論点>>
住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者(カスタマーエンジニア、CE)が、上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるか? それとも個人事業主か?
<<判旨>>
 住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者(カスタマーエンジニア、CE)は、次の(1)~(5)など判示の事実関係の下では、上記会社との関係において労働組合法上の「労働者」(3条・7条各号)に当たる。
(1) 上記会社が行う住宅設備機器の修理補修等の業務の大部分は,能力,実績,経験等を基準に級を毎年定める制度等の下で管理され全国の担当地域に配置された上記受託者によって担われており,その業務日及び休日も上記会社が指定していた。
(2) 業務委託契約の内容は上記会社が定めており,上記会社による個別の修理補修等の依頼の内容を上記受託者の側で変更する余地はなかった。
(3) 上記受託者の報酬は,上記会社による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に,上記会社があらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に上記会社が当該受託者につき決定した級ごとの一定率を乗じ,これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていた。
(4) 上記受託者は,上記会社から修理補修等の依頼を受けた業務を直ちに遂行するものとされ,承諾拒否をする割合は僅少であり,業務委託契約の存続期間は1年間で上記会社に異議があれば更新されないものとされていた。
(5) 上記受託者は,上記会社が指定した担当地域内においてその依頼に係る顧客先で修理補修等の業務を行い,原則として業務日の午前8時半から午後7時まで上記会社から発注連絡を受け,業務の際に上記会社の制服を着用してその名刺を携行し,業務終了時に報告書を上記会社に送付するものとされ,作業手順等が記載された各種マニュアルに基づく業務の遂行を求められていた。
(補足意見がある。)
<<コメント>>
1.本件は、団交拒否(労組法7条2号)の不当労働行為に対する労働委員会への救済申立てを経て、提訴された。本判決は、「労働者」性を否定した原審を破棄し、自判した。
2.「労働者」性の判断要素
 本判決は、労組法上の「労働者性」判断において、(1)事業組織への組み入れ、(2)契約内容の一方的決定、(3)報酬の労務対償性、(4)申し込みに応じる関係(諾否の自由)、(5)業務遂行上の指揮監督性、といった要素を考慮している。もっとも、同日の新国立劇場運営財団事件(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110412150301.pdf )同様、一般的規範を定立せず、本件事案の即して判断していることから、就労の実態に即して判断する趣旨であり、その意味で事例判例といえる。
3.本件の特徴
 (5)作業手順等が記載された各種マニュアルに基づく業務の遂行を求められていた事実につき、最高裁は、指揮監督性を認定するものとして評価した。原審では、「委託内容による制約にすぎない」と評価されていた点である。
 また、田原裁判官補足意見は、事業者性に言及している。原審が、CEを個人事業主と判断して「労働者性」を否定したように、事業者性は労働者性の否定的要素となる。田原意見は、CEに法人が含まれるという事実の主張がないことから、事業者性を否定した。
本件では、インターネットに掲示していたCEの募集広告では,「勤務地」,「勤務時間」,「給与」,「待遇・福利厚生」,「休日・休暇」等の項目の記載があり,それらの各項目からして,その募集広告は,被上告人が行う事業に係る外注業者を募集する内容とは到底いえず,また,本件業務委託契約の内容を補充する「CEライセンス制度」の説明文中には,「福利厚生及び功労的特典」として「健康診断」,「慶弔会」,「リフレッシュ休暇手当」(契約10年目以後5年ごとに金券を支給するもの),「休業保障」(忌引き)等,独立した事業者との契約内容にそぐわない事項が定められている。また,被上告人がCEに携行させていた名刺には,氏名の肩書きに「○○サービスセンター」と記載し,氏名の下部には被上告人の会社名のみが記載されており,平成14年ころまでCEに携行させていた身分証明書には,「上記の者は,当社従業員であることを証明します」と記載して,被上告人の会社名を記載して押印したものが発行されていた(その後「上記の者は当社が製品のメンテナンス業務を委託する者であることを証明します」との証明書に変更されていると認められる)のである。