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眠っている君を
そっと大切に抱きかかえたまま
廊下の窓から見える美しい満月を
立ち止まって…ぼんやりと眺めていたら
君と初めて結ばれた…あの切ない夜が
自分の脳裏に鮮明に思い浮かんで来た――…。
初めての痛みに耐えながらも
ひとつになれた事に感激の涙を流し
俺に抱きついてくれた君……。
あの瞬間…
これ以上の幸せは他には無い…と本気でそう思った……。
大切な…生涯の宝物を手に入れたあの夜の満月も
今と同じように…柔らかく…優しい光を放っていた――…。
~憂いの瞳 6~
蓮はバスルームに着くとキョーコを抱いたままバス専用の椅子に座り、シャワーで彼女の身体を洗おうとした瞬間…浴槽にお湯が入っていない事に気が付いた。
「………………………。」
…ちゃんとお湯を確認してから連れて来れば良かった……。
自分がどれだけ取り乱していたかがよく分かる。今までにも何回か眠ってしまったキョーコをそのままバスルームまで抱きかかえて連れて来た事はあったが、お湯が無いのは今回が初めてだ。
蓮は自嘲の笑みを浮かべた。
…少し…落ち着け…俺――…。
「……キョーコ……、キョーコ……?一回 起きて…?」
「……………………ん…」
自分の胸の中にいるキョーコをそっと優しく揺すってみると僅かに反応はしたものの…彼女が起きる気配はまだ無かった。
仕方なく…蓮は片腕でキョーコを抱いたまま軽くシャワーで浴槽を洗い流し、風呂のスイッチを押した。水圧が強い為、シャワーを使いながらでも10分程度で沸きそうだ。
「…………ふぅ……」
蓮は軽く深呼吸をした後 今度はキョーコの身体が冷えてしまわないように、熱めのシャワーで彼女の身体を綺麗に洗い始めた。
「………う…………ん……」
キョーコは少しだけ瞳を開いたが、まだ うとうと…としたまま安心して完全に蓮に身を任せている。
一応…彼女の身体の中も丁寧に洗い流してみたものの…本当は分かっている…。
一度 中に出してしまったら、後からシャワーで洗い流してみても…気休め程度にしかならないという事を――…。
ちゃんとキョーコに話をしなくてはならない……。
…これから先の…俺達の未来の為にも――…。
蓮は一度静かに瞳を閉じ…少し濡れた自分の髪をゆっくりと片手で掻き上げた後、決心したかのようにそっと目蓋を開き 甘く…優しい声でキョーコの耳に囁いた。
「…キョーコ……、キョーコ……。一回…ちゃんと起きられる……?」
「………………………ん…??」
「…話……。君に大切な話があるんだ……。今…どうしても伝えないといけない…………。」
蓮はキョーコの頬に手を置き、ゆっくりと優しくその滑らかな頬を親指で撫でた後…そこに そっと…そっと触れるか触れないか位の切なく甘いキスを落とした。
そして…うっすらと開いた彼女の瞳を、蓮は愛おしくてどうにかなってしまいそうな程に甘く…色気のある瞳で見つめる――…。
「………………………。起きた…?キョーコ……。」
「…………………ん…久遠…」
キョーコは目を覚ますと…そのまま甘えて蓮の首に自分の両腕を回して抱きついて来た。
…蓮の胸が締め付けられるように切なく痛み始める……。
その可愛らしい行動が嬉しくて――…。
また…彼女の何気ない仕草のひとつひとつ…全てが愛おしくて――…。
しっかりと…俺の生涯を掛けて…この大切な宝物を守っていくんだ……!!
蓮は意を決するようにキョーコの身体を強く…強く抱き締め返した。
そうして…暫くお互い抱き締め合った後、蓮はシャワーのヘッドを持ったままキョーコを抱え上げると3分の2程お湯が溜まった浴槽の中に入った。
大切にキョーコを抱き締めたまま…彼女の身体が冷えないように肩から背中にかけて熱めのシャワーを当てていく。
キョーコは…そんな風にまるでお姫様のようにいつも自分を扱ってくれる蓮に対して…本当に自分は愛されている…と心から幸せを感じていた……。
「………………………。」
その後…暫く無言でシャワーをキョーコの肩に当て続けていると…“お風呂が沸きました”…と装置が喋り、蓮はシャワーヘッドを静かに片付けた。
少し頬が火照り…色気を帯びた表情で自分を見つめて来るキョーコに、蓮は再び抱きたいと思う気持ちを抑えながら彼女の両肩にそれぞれ自分の手を置き…
深く…深く…深呼吸をした後に真剣な眼差しで彼女の瞳を見つめながら、重い口を開いた。
「………………………。キョーコ…良く聞いて…?」
蓮の…真剣なその表情に、キョーコ自身も何となく…彼が何を言おうとしているのか覚った…。
「…さっき…避妊に失敗した……。抜いた時に…ゴムが外れていて…完全に中.出し状態になってた……。」
そう言うと…切ない瞳でキョーコを見つめながら、蓮はキョーコの濡れ髪をそっと優しく指先で掻き上げた…。
「…………………………………。」
キョーコは…何も言えずに…唯々じっと蓮の瞳を見つめ返す――…。
「…多分…シていた最中に…1回そのまま(中に入れたまま)動きを止めて話をしていたから…その時に外れてしまったんだと思う……。」
「……ごめんね…キョーコ………ごめん…。」
そして…蓮はふんわり優しくキョーコを抱き締め…眉間に少し皺を寄せ、瞳をぎゅっと閉じたまま…何回も彼女に謝る――…。
「………………………。どうして…そんなに謝るの……?」
キョーコが小さな声でそう囁くと…蓮は抱き締めていた彼女の身体を少し離し、一度彼女と顔を合わせた後…伏せ目がちになりながら話を続けた…。
「………………………………………。」
「……さっき…卑怯な事を考えていたから……。」
「………………………。卑怯な事…?」
蓮は無言のまま静かに頷いた……。
「…このまま…このまま朝までキョーコに教えずにいて…キョーコが…妊娠してしまえばいいんだ…って」
彼の憂いた瞳が…キョーコをじっと見つめる――…。
「…いや…正確には…その前に…生で抱いて妊娠させてしまえばいいって…そう思ってた……。」
「……そうすれば…君を…完全に俺のモノに出来るから……。」
蓮はそう言った後…彼女の身体を壊れそうな位に強く…強く抱き締めた…。
「…それだけ不安なんだ……。誰にも君を取られたくない…本音は誰にも見せたくない……!」
「………………………。子供が出来てしまえば…キョーコは直ぐに…完全に“俺のモノ”になる…って…。」
「…何て身勝手で…狡い考え…を…俺は……っ」
湯船の中は十分に温かい筈なのに…抱き締めている彼の腕は少し震えているように感じられた――…。
「………………………………………。」
「…キョーコは…後少しでやっと二十歳になる年で…まだまだ女優としての夢も色々とあるのに…!」
「自分の欲望を…完全に一方的にキョーコに押し付けようとした――…!!」
狡猾で…卑怯な俺の本音――…。
それを…完全に曝け出して
反省しようとしてみても…
それでもまだ…心の奥…深い闇の中で
今回の件で彼女の身体に新しい命を望んでいる自分がいる――…。
だけど…お願いだから…どうか…そんな身勝手な俺を赦して欲しい――…。
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