【高校生MK5】






高三の卒業間近だった。

体育館で全校生徒の集まりがあった。

オレは1人バックれて3階の教室にいた。

誰かの机に腰を載せ、朝の空気に顔を漂わせ

ポカ~ンとしていた。

するといきなり怒鳴られる。

「何やってんだ!」

窓側の通路に先生がひとり立っていたのでびびった。

学年一怖い古文の西村先生だ。

「後で職員室に来い!」

先生はそう言葉を残してドカドカ通路を歩いて行った。

西村先生はやせた黒縁メガネの怖い先生だった。

いつもきびきびしていて周りを緊張させていた。

だが一回だけ人間味を感じた時がある。

授業の最初に、自分の友人の話をしながら、

人生で大事な物は何かと話してくれた事がある。

ところが肝心な大事な物が何だったかは忘れた。

でもその話の終わり辺りで勉強の事をこんな風に言った。

「だから学校でやる勉強なんて、その大事な物のほんの

ちっぽけでしかない。

ましてや古文なんて、

それをこうやって今、授業で君達と必死にやるのも何だが......

と言葉尻が鮮明じゃなく、オレはその後に何か話が続くものだと思い、

先生を見ていたが「さあやろう!」の一言の後、

いつもの恐怖の古文が始まった。






職員室に行くのは相当の覚悟がいった。

タバコでもないし、たかが全校集会をバッくれただけで

こんな覚悟を強いられるのは割が合わない気がした。

後数日で卒業だ、古文の授業もない。

これもバッくれようかと頭をよぎったが、

思い切って職員室のドアを開けた。

開けると先生は真っ正面の机に座っていた。

オレは近づき「どうもすいませんでした」と深く頭を下げた。

「うむ」それだけだった。

マジで覚悟した割にはあっけなかったが、職員室を出る時、

涙がかすかにチョチョ切れた。

そして何かがすう~っと抜けていった。

今思えば、あのあやまりが高校生活の集大成のような気がしなくもない。