☆テツコの部屋☆~映画評論館~ -7ページ目

ノック 終末の訪問者

64点

『シックス・センス』でお馴染みサスペンス・ホラーの奇才M・ナイト・シャマラン新作。彼らしさ満載というか相変わらずというか、不気味な雰囲気かもし出す一見怖そうな内容。
今回はポリコレの風潮に習い、主人公がゲイのカップルで養子がアジア系女の子というわかりやすさ。今はこうでもしないと映画作れないのかね。
さてこの3人が山小屋で休暇を過ごしていると、突然ノックの音がして4人の男女が無理矢理侵入してくる。彼らが言うには「世界に終末が迫っている。それを止めるには、家族の1人を家族の手で殺すこと」。この辺の導入部はなるほど面白そうな出だし。
しかしあとは延々、この侵入者4人と家族3人が山小屋の中で会話するだけ。物語の変化といえば、テレビで本当に終末が迫っているという映像が流れるくらい。だがこの映像が本物かどうかはわからない。果たして終末は本当に訪れるのか?引っ張りに引っ張る展開がイライラを誘う。


そして見終わった感想としては、やっぱり今回も期待に応えるものではなかった。とりあえず驚くようなオチがないのは近年のシャマラン作品と変わらず。正直もはや、日本のドラマ「世にも奇妙な物語」を長編にして劣化させたようなクオリティ。
冒頭からのストーリー自体は興味深いものなだけに、この低調な構成は残念の一言。もう二ひねり三ひねりして、気の利いたエンディング思いつかなかったのかな。
シャマラン作品見るたびに同じようなこと毎回書いてるけど仕方ない。これ見て「面白かった!さすがシャマラン!」って言う人いないと思うぞ。

彼は今だに24年前の出世作『シックス・センス』の亡霊に悩んでいる気がする。

監督:M・ナイト・シャマラン
出演:デイブ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、クリステン・ツイ、ルパート・グリント
2023年  100分
原題:Knock at the Cabin

生きる LIVING

90点
1952年・黒澤明の名作『生きる』をイギリスで2022年にリメイク。
舞台は1953年のロンドン。役所の市民課で淡々と事務的に、毎日同じような仕事をこなす官僚の老人ウィリアムズ。ついたあだ名が「ゾンビ」。
ある日ウィリアムズが、末期ガンで余命半年との宣告を受ける。その最後の半年で何ができるか、を描いた物語。
クロサワ映画というとどうにも大作で敬遠しがちな人もいるかもしれないが、こちらは1時間40分とかなり端折っており見やすい構成。
主人公ウィリアムズの終末が、コミカルな部分も含めどこか身近に描かれているのが嬉しい。
同居している息子夫婦が遺産を狙っていたり、元同僚の女性と軽い恋模様があったり、そこは日本のドラマにも出てきそうな演出。
残されたわずかな余生の価値を求め、ウィリアムズは自ら「お役所仕事」から脱却し、放置してあった「子供の遊び場公園の建設プロジェクト」を進めようとする。誰もやりたがらないこの仕事を、果たして余命半年のお爺ちゃんが成し遂げることができるのか?
昔の名作は、得てして今見ると堅苦しくて面白くないことが多いものだけど、本作は違う。オリジナルは日本的、だがこちらはイギリス的に脚色されており、その絶妙な表現方法がハマっている。黒澤明マニアが見るとあれこれ批判されそうだけど、まっさらな気持ちで見ると主人公ウィリアムズの最後の「挑戦」が心に響くと思う。むしろこれは若い人が見た方が活力になるのでは、と感じた。

クロサワ映画を知らない人にここはおすすめ。

監督:オリヴァー・ハーマナス
出演:ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク
2022年  102分
原題:LIVING

FALL フォール

70点

ここは少々ネタバレ注意。
クライミング事故で夫を亡くし立ち直れない主人公女性が、チャレンジとして友人と2人で地上600mのテレビ塔に登る。しかし頂上に着いたらハシゴがバラバラに落ちてしまい、降りれなくなりさぁどうする?的展開。
内容としてはジェームズ・フランコ主演の『127時間』や、スキー場のリフトに取り残された『フローズン』を彷彿させる。
しかしこの映画の特色はなんといっても、高さ600mというところ。わずか1畳程度の場所に取り残され、携帯の電波も届かず降りることもできない、絶対絶命の状況がとにかくゾワゾワくる。

なので高い所が苦手な人にはおすすめできない。俺、見て後悔したもん(笑)
俗に言うワンシチュエーション作品だが、題材が題材だけに緊張感は常に途切れないのと、終盤で意外な事実が明かされたりこの手の作品にしては単調にならない仕掛けも施してある。
けど散々盛り上げたわりに、わりと強引な形で助かってしまうオチがやや肩すかし。まぁでもこの映画は助かるか死ぬかどっちかしかないので仕方ないかな。


監督:スコット・マン
出演:グレイス・キャロライン・カリー、バージニア・ガードナー、メイソン・グッディング、フェフリー・ディーン・モーガン
2022年  107分
原題:FALL

シン・仮面ライダー

55点

仮面ライダー生誕50周年の企画の一つ。物語は旧作のリブート(再起動)で基本的に1から始まっているが、昔のライダーを知らないとわかりづらい内容やオマージュが詰め込まれているため、仮面ライダー詳しくない人にはとっつきにくいかもしれない。
主人公の本郷猛はじめ緑川ルリ子や一文字隼人など、旧作のキャラはだいたいそのまま登場。ただ主役級の池松壮亮が個人的にはイマイチすぎた。ルックスや風貌が小物丸出しで棒演技。浜辺美波も顔は美人かもしれんが、体が小さくて子供っぽいんだよね。

仮面ライダーは昭和に始まり平成~令和とずっと続いているが、主役は佐藤健、菅田将暉、福士蒼汰など錚々たる面々で若い女性ファンも多いけれど、今回はミスキャストだったように思えた。
それと『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』と違って等身大の戦いなので、迫力が薄く見た目がかなりショボい。クモオーグだのサソリオーグだの敵キャラが過去のシンに比べると、一気に子供向けに戻ってしまった印象。しかしそれでいてストーリー自体は大人をターゲットにしてるのが厄介。その辺中途半端に感じられてしまった。
長所としては、脇役で多くの意外なキャストが出演している。そこは見てのお楽しみで書かないけど、あぁこの人も出てるんだっていう発見が面白い。その辺は庵野監督のファンはこれこれ、と唸るかもしれない。

ウチの会社の中年社員でも昔ながらの隠れ仮面ライダーファンは案外多くて、そういう人がこの作品を見てどう思うかは気になるところ。
しかし個人的には映像が物足りず、ストーリーがややこしい。この手の作品は一歩間違うとギャグになってしまうが、その境界線スレスレだと思う。公開直後ならまだしも、数年後にこれを見たらどう感じるか。

監督:庵野秀明
出演:池松壮亮、浜辺美波、柄本佑、塚本晋也、手塚とおる
2023年  121分

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

60点
アジア系の出演者を中心にしたアメリカ舞台のハリウッド作品。先日開催された米アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門で授賞しているが、まぁ昨今のポリコレ、チャイナマネーの影響なんだろうなとは想像できる。映画としてはトップガンやアバターの方が面白いと思うけれど、今年はこの映画が賞独占という「時代の流れ」なんだろう。
さて監督は『スイス・アーミー・マン』のダニエルズコンビで、内容はかなり破天荒なSFアクションコメディ。マルチバース/並行宇宙の要素をふんだんに盛り込んだ実験的ストーリー。

人間の行動には選択肢が生じるが、別の行動を選んだ自分がそれぞれ「マルチバース」で別の世界に生じている。アメリカでコインランドリーを経営する、何の変哲もない中国移民のおばさんにこのマルチバースの要素が降りかかるなんとも異次元な展開。例えば『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でパラレルワールドを通じて3人のスパイダーマンが出会ったけど、まぁあんな感じの世界観。
全体的に香港映画ばりのカンフー、そして笑える要素を散りばめたあたり、日本の映画ファンには取っ付きやすいかもしれない内容。ただマルチバースをテーマにしたストーリーはメッチャわかりづらく、その辺は『マトリックス』並の奥の深さがある。
『2001年宇宙の旅』から『ラ・ラ・ランド』あたりまでオマージュした演出。新しいのか古臭いのかよくわからない作風。だが細かい部分を気にせずスカッとできるか、意外と面倒で途中で飽きてしまうか、見た人によって印象がガラッと別れそうな映画。

ただ少なくとも数々の映画賞に輝くような崇高な内容ではなく、どっちかと言えば「なんじゃこりゃ」みたくプッと吹き出すようなB級的作品。先に言ったけど、もう映画賞は内容が関係なくなってる印象。

なお主人公の夫を演じたオッサン、実は『インディ・ジョーンズ魔宮の伝説』や『グーニーズ』に出ていたあのアジア系子役キー・ホイ・クァン。アカデミー助演男優賞に輝き会場でハリソン・フォードとも抱き合っていました。

 

しかしこういう映画こそ、気の利いた邦題付けるべきでは。

 

監督:ダニエルズ(ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート)
出演:ミシェール・ヨー、ステファニー・スー、キー・ホイ・クァン、ジェームズ・ホン、ジェイミー・リー・カーティス
2022年  140分
原題:Everything Everywhere All at Once

丘の上の本屋さん

66点

「イタリアの最も美しい村」という民間団体があって、そのうちの一つであるチヴィテッラ・デル・トロントという場所で営業する小さな古本屋を舞台に、いくつかの出会いを描いた心暖まる物語。
ベースとなるのは店主のリベロと、お金がなく本が買えない少年エシエン。リベロはエシエンに本を貸し、読んだ感想を聞いていく展開。
少年以外でもいくつかの来店があり、それぞれエピソードが描かれ物語のベースになっているが、意外とそこはあまり深く突っ込まれず、ぶっちゃけ大した話でもない。ようは古本屋を題材にしたアイデアそのものは良かったけれど、映画にするには脚本がイマイチだった印象。
まぁ予告編を見てもらうとわかるけど、とにかく綺麗なイタリアの景色と、童話に出てきそうな絵に描いたような古本屋の爺さん、そしていかにも貧乏そうな少年。定型文通りのなんとも型にはまった展開が続く。まぁ実際文部省選定なんだけどさ。
少年に貸す本も「ピノキオ」「イソップ寓話集」から「ロビンソンクルーソー」「ドンキホーテ」そしてなぜか「白鯨」を経て最後に「世界人権宣言」に飛躍するという、結果として道徳の授業を見せられたイメージ。

先週の『湯道』でも書いたけど、こういう店舗に集まる客を描いたストーリーは、やっぱり飲食店題材じゃないとなかなか面白くならない。本作もやりようによっては化けた題材かもしれないが、心に残る映画って作るの難しいんだろうなぁ、と改めて思った。

監督:クラウディオ・ロッシ・マッシミ
出演:レモ・ジローネ、コッラード・フォルトゥーナ、ディーディー・ローレンツ・チュンブ、ピノ・カラブレーゼ
2021年  84分
英題:THE RIGHT TO HAPPINESS

湯道

69点

「茶道」「花道」ならぬ、お風呂の伝統文化『湯道』をコミカルに描いた作品。
主人公・史朗(生田斗真)が、実家の銭湯「まるきん温泉」を売り飛ばして跡地にマンションを建てようと企む。その実行のため、ひとまずその銭湯で働き様子を伺う展開。
本作の特徴は、とにかくひとクセもふたクセもある客が次々と現れ、楽しいやりとりしながらエピソードを繰り広げるところ。そのためキャストも豪華で個性的。

しかし一人一人の人生を描いているため、やや暑苦しい部分も多かった。お湯だけに(笑)
ただ個人的に思ったのは、こういう作品はやはりレストランのような飲食店の方が面白い。銭湯だと確かに今までにあまり無くて話として珍しいが、実際見てみたら意外と面白くなかった。せっかくの独特な面々がもったいなかった印象。
一応、終盤にどんでん返しも用意されいるが、そのオチもあまりサプライズ感は得られず、ふーんで終わったレベル。数多くの逸話を見せたはいいが、全体像が散漫になってしまった気がした。
個人的にお風呂大好きで、冬場は2度3度と入りたいタイプだけど、この映画でそのお風呂の楽しさを味わうことは今一つできなかった。アイデアは悪くなかったけれど、映画向きではなかった印象。

監督:鈴木雅之
出演:生田斗真、濱田岳、小日向文世、橋本環奈、天童よしみ、クリス・ハート、戸田恵子、吉行和子、ウェンツ瑛士、朝日奈央、生見愛瑠、吉田鋼太郎、夏木マリ、角野卓造、柄本明
2023年  126分

#マンホール

59点
ここは多少ネタバレしてますが、肝心な結末は明かしていないのでご安心を。
不動産会社の若手エリート営業マンで、翌日に結婚式を控えた幸福な主人公・川村(中島裕翔)が、パーティの帰り道に突然マンホールの中に落ちてしまい、なんとか脱出しようとする一種のワンシチュエーション作品。
ハリウッドには例えば『ソウ』『リミット』『キューブ』などこの手の名サスペンスはけっこう多いが、邦画だと珍しいと思う。
映画は中盤まで、マンホールに落ちた川村の脱出劇が中心。警察や元カノに連絡し捜索してもらうがなぜか発見されず、ガス漏れや大量に湧き出る泡と悪戦苦闘しながらも、SNSを使って自らの状況を外部に説明し助けを求める構成。
ただ終盤は、川村の意外な過去に焦点を当てた「真相」へとシフトチェンジ。そもそもマンホールに落ちたところからして、事故ではなく事件だったというクライマックス。なぜ、どうしてこうなったかは見てのお楽しみだが、まぁかなーり強引な突っ込みどころの多い展開が待っている。
そして何より主演の中島裕翔が棒演技すぎ。彼は静かな演技はそこそこできるが、本作みたく混乱する役どころだと力不足が露呈してしまっている。去年公開された相葉雅紀のホラー『“それ”がいる森』の時も思ったが、この辺ジャニーズの限界なのでは。
さて不満点をタラタラ述べたけど、最後の最後で意外な真犯人が出てきます。これはちょっと予想外のラストだった。というわけで途中まではダメダメだったけど、どんでん返しがなかなかだったのでちょっと巻き返してこの点数かな。

監督:熊切和嘉
出演:中島裕翔、奈緒、永山絢斗
2023年  99分

すべてうまくいきますように

54点

今週のミニシアターランキングで2週連続1位の映画。主演ソフィー・マルソー演じる主人公が、倒れて障害を負う父親の現実に向かう内容。

1980年に『ラ・ブーム』で鮮烈なデビューを飾った当時13歳のソフィー・マルソーもこの時54歳。当然年齢は感じさせるが、基本的に美貌が変わってないのが凄い。とりあえず当時のファンにはおすすめしたい。
さて監督は『スイミング・プール』『Summer of 85』などでお馴染み、知る人ぞ知るフランスの鬼才フランソワ・オゾン。今回は「尊厳死」をテーマに置いた作品。
脳卒中で倒れた85歳の男性アンドレ。体の自由がきかなくなったアンドレは娘のエマニュエル(ソフィー・マルソー)に安楽死を頼み、合法なスイスでそれを模索していく。
テーマは重いが、実は意外とユーモアあふれる展開で楽しく見れる部分が多い。脳卒中と言ってもそれほど重症ではなく、映画が進むごとに症状も改善され、それなら死ななくてもいいんじゃない?と思わせながらもアンドレの決意は変わらない。さて結末やいかに。
予告編を見て一発で興味をそそった作品。しかし実際見るとアンドレがゲイだったり、妻もうつ状態だったり、相続の手続きが面倒だったりなどなどネガティブな要素も多く、随所でかなり眠気を誘う。思いのほか物語は淡々と進んでいく印象。
さて終盤では安楽死を通報されてしまうが、誰が通報したのかわからないまま映画は終わってしまう。けどそこに重要な意図があったのかな?そういう部分も含めて穴も多く、こう言っちゃなんだがあまり面白くないというか印象に残らない作品だった。泣く気満々で見たけど涙腺はピクリともせず。

監督:フランソワ・オゾン
出演:ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディン・ペラス、シャーロット・ランプリング
2021年  113分
原題:Tout s'est bien passe

イニシェリン島の精霊

72点

『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督作品。

舞台は1923年のアイルランド、イニシェリン島での物語。ちなみにこの島は架空の場所で実在しない。
小さい離島で暮らす主人公パードリック(コリン・ファレル)。ある日、親友で飲み仲間の太ったパルムからいきなり「お前とは友達をやめる」と言い渡される。いい年こいたオッサン2人のリアルな人間関係を描いた展開。
映画は突然絶縁されたパードリック側の視点で進む。なぜ?どうして俺が?と理不尽に思うも、パルム側からすると、飲みに行ってもくだらない話しかできないパードリックに飽き飽きしていたという、まぁどうでもいいけど重要な理由(笑)
しかし映画は後半になると、コルムが自らの指をちょん切ったり、第三者が出てきて暴力をふるったり、かなり過激な一面を見せていく。
序盤は田舎生活にありそうな、小さい集団の難しさが上手く描かれていた。そしてこれは暗に、お隣で当時起きていたアイルランド内戦を表している。まぁこの辺の背景は、日本人にはちょっとピンとこないはずなので、興味ある人は軽く調べてから見た方がいいかもしれない。

さて映画は中盤あたりまで、孤島の綺麗な風景も手伝い興味深く見れていたけど、後半になると何やら物騒な方向にシフトチェンジ。無駄にグロい映像も交えて暴力的な描写が多いわりに、結局明確な結論は導かれず、その辺は『スリー・ビルボード』と似たような曖昧な締めになってしまったのが残念。
こういう余韻を残したエンディング好きって人も多いだろうけど、個人的にこの終わり方は中途半端でイマイチに感じられた。

2023年ゴールデングローブのミュージカル/コメディ部門で作品賞を受賞。

監督:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン
2022年  114分
原題:The Banshees of Inisherin