Q&A896 AA融解胚の発育停止2回 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 妻30歳(特に原因なし、AMH 7.54)、夫33歳(乏精子症)、タイミング13回、人工授精4回
不妊専門クリニックに転院、夫の乏精子症(濃度 1480万/mL、直進運動精子濃度 40万/mL、精子運動性指数 10)のため、体外受精では厳しいとのことで、顕微授精(アンタゴニスト法)の方針になりました。
4個の5日目胚盤胞、1個の6日目胚盤胞が育ち、全胚凍結し、自然周期で融解胚盤胞移植しましたが、妊娠には至りませんでした。
1回目は4AAを融解し、止まってしまったとのことで、4AA’を追加融解し5AA’の移植。
2回目は5AAを融解し、また止まってしまったとのことで、4ABを追加融解し、5ABを移植しました。
ここで指摘されたのが、AAの良いグレードなのに、2回とも成長が止まってしまうことは受精卵に何かしらの問題があるのかもしれないということです。この理由として考えられることはありますでしょうか。
また着床しなかったことで、不育症の検査を早いうちに受けるように言われましたが、妊娠反応も出ていないのに不育症の検査を受ける意味があるのでしょうか。
さらに着床障害がわかったところで治療法がないとどこかで見たのですが、それが事実なのか。着床障害として考えられる理由はあるのでしょうか。

A 誤解されている方が多いのですが、不育症検査は着床障害の検査ではありません。着床から判定日までにうまくいかない場合を想定した検査です。せっかく着床したのに判定日まで育たなかったため、判定日の検査がマイナスになってしまう場合です。この時期に30%程度の胚が育たないと考えられています。下記の記事を参照してください。
2013.10.27「☆☆不妊症と不育症は親戚関係の疾患です」

当院では、着床障害の検査として、慢性子宮内膜炎検査(BCEテスト)銅亜鉛検査を行っています。慢性子宮内膜炎は、3回以上反応が出ない方の30%に見つかりますが、治療が可能です。内膜組織を採取し、CD138免疫染色を行って診断します(それ以外の方法では正確な診断はつきませんのでご注意ください)。詳細は、下記の記事と当院の「北宅弘太郎」医師のブログを参照してください。
2014.12.8「☆慢性子宮内膜炎と着床障害」
北宅弘太郎「着床不全・着床障害のブログ」

銅亜鉛検査は、当院オリジナルの検査で、銅の濃度が高い場合に妊娠率が低下することが後方視的研究で明らかになりました(論文投稿中)。亜鉛サプリメントでの治療が可能です。

私が気になるのは、凍結融解方法です。大きな拡張胚盤胞を凍結する際には、胚の中の水を抜くAS(artificial shrinkage)が有効ですが、必ずしも全ての施設で行われていません。もしASが行われていないようでしたら、ASを実施して胚凍結するのがお勧めです。また、ASをしていても胚のダメージが大きい場合は、胚凍結に向いていない可能性があります。その場合は、新鮮胚移植を選択します。
2013.9.18「Q&A78 胚盤胞凍結はダメージを受けやすいのですか?」の記事を参照してください。