オーストラリアの妊娠(不妊)教育 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

妊娠教育(あるいは不妊症教育)の必要性については、2012.11.15「高校生の意識調査 その1」2012.11.18「高校生の意識調査 その2」でご紹介しました。本論文は、妊娠しようと考えている生殖年齢の男女の不妊症の知識を調査したところ、あまり知られていなかったことを示しています。

Fertil Steril 2013; 99: 502(オーストラリア)
要約:18歳~45歳で、現在あるいは将来妊娠を望む462名の男女に電話インタビューで不妊症の知識を調査しました。ほとんどの方は、女性および男性の妊孕性(妊娠できる力)が低下し始める年齢を約10歳多く見積もっていました「女性は35歳」と正解した方は約1/4「男性は45歳」と正解した方は約1/3でした。「女性の肥満と喫煙が妊娠に悪影響」と理解していた方は59%に対し、「男性の肥満が妊娠に悪影響」と理解していた方は30%「男性の喫煙が妊娠に悪影響」と理解していた方は36%でした。妊娠しやすい時期がいつであるかを間違えていた方は約40%にもなりました。

解説:先進国ではいずれの国でも晩婚化により不妊症の夫婦が増加しています。体外受精の進歩により「何歳でも妊娠できる」「病院に行けば妊娠できる」と錯覚している方も多くおられます。また、先進国では肥満の方も増加しています。肥満や喫煙は健康に悪影響であることは誰もが知っていますが、同様に妊娠にも悪影響であることはあまり知られていません。私のブログでは「BMI」「タバコ」のテーマを設けているのは、この2つの関与を重視しているからに他なりません。タバコについては、丁度日本のエコチル調査の中間報告があったばかりです。約33000人の妊婦の5%が喫煙中で、夫の喫煙率は45%でした。24歳以下の妊婦では喫煙率10%と最も多く、その夫では63%でした。多くの妊婦が喫煙しているのは教育が行き届いていないことを意味します。オーストラリアでは「あなたの妊娠」というプロジェクトが2011年に立ち上がりました。これは、妊娠や不妊症に関する知識を若者に知ってもらい、子づくりプランの支援を行うとともに、歳をとって知らないうちに妊娠できなくなってしまうことを防ぐ目的で設立されました。日本でもこのような仕組みか、中高生の段階で教育の機会を設けられるような仕組みを作って欲しいものですし、そのように働きかけを行っていきたいと考えています。