緊急避妊の方法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

妊娠治療のプロは避妊のプロでもあります。両者は表裏一体であり、避妊法の研究は着床の研究の大きなヒントになります。本論文は、緊急避妊の方法についてまとめた最新のレビューです。緊急避妊の有効率は、IUD挿入>UPA法>LNG法>Yuzpe法であることを示しています。なお、Yuzpe法はオリジナルの方法です。

Hum Reprod 2015; 30: 751(イタリア)
要約:1977年にYuzpeらにより提唱された緊急避妊ピルは、エチニルエストラジオール(EE)100μg+レボノルゲストレル(LNG)500μgを72時間以内に内服し、同量をその12時間後に内服するというものです(Yuzpe法)。その後LNGのみの方が効果がより高いことが示され、LNG1500μgを1回、あるいはLNG750μgを12時間あけて2回内服する方法が登場しました(LNG法)。最近、選択的プロゲステロン受容体調節剤(SPRM)が開発され、避妊効果が示されています。ユリプリスタール(UPA)30mg1回内服は欧米で使用され(UPA法)、ミフェプリストン(MPS)10~25mg1回内服は中国、ベトナム、ロシア、ウクライナで使用されています。また、銅の成分を含む子宮内避妊具(IUD)を5日以内に子宮内に挿入する方法もあります。

        避妊効果   
Yuzpe法     58%    
LNG法     80~86%

卵胞が12~17mmの時に使用したLNGの排卵抑制効果は96%ですが、LHサージが開始してしまうと排卵抑制効果は消失します。一方、UPAの排卵抑制効果は100%であり、LHサージ開始直後では79%で排卵が遅くなりますが、完全なLHサージが生じてしまうと排卵抑制効果は消失します。また、LNGやUPAを使用しても子宮外妊娠率は増加しないことが明らかになっています。

緊急避妊に使用される投与量では、LNGとUPAは着床に影響しないことがin vitroの実験で確認されていますが、MPSは着床を妨害することが示されています。また、IUDは着床を妨害し、避妊効果はLNGやUPAより強力です。したがって、LNGやUPAは避妊失敗後なるべく早く内服する必要がありますが、IUDは少し時間かせぎができます。

解説:卵子は排卵後12時間、精子は射精後最大7日間、女性の体内で生存するとされています。この間に受精が成立すれば妊娠のチャンスが生まれます。妊娠を望んでいないにもかかわらず、この期間に避妊に失敗したり、避妊せずに性交した場合に緊急避妊を必要とするわけです。

LNGやUPAはかなり有効な緊急避妊の方法といえますが、RCT研究が行なわれていないため、真の有効性は不明です。欧米の多くの国では、LNGが医師の処方箋なしに購入できるため、極めて多くの方が使用しているものと考えられています。しかし、これにより妊娠中絶が減少しているのかどうかについては正確な統計が得られていません。

発展途上国では人口増加問題に苦しいんでいるため、世界に目をむけると妊娠治療より避妊法の研究の方が望まれています。私は、このような避妊法の研究から着床のメカニズムが解明され、妊娠治療に応用できることを期待しています。

新たな避妊法については、下記の記事を参照してください。
2014.11.12「新たな避妊法の研究から得られること」
2014.5.18「☆抗菌剤による避妊から学ぶ、膣内感染防御の巧妙な仕組み」
2014.3.28「新しい避妊法」