米国での外国人のART件数から見えるもの | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、米国での外国人のART件数を分析したものです。なぜ米国でARTを実施するのか?そこには他国での規制が大きく関与するとしています。

 

Fertil Steril 2017; 108: 815(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.07.1168

Fertil Steril 2017; 108: 761(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.09.027

要約:2006〜2013年に米国で実施された全てのART(自己卵子、ドナー卵子、代理懐胎、PGS・PGD周期を含む)について、米国疾病管理予防センター(CDC)の国家ARTサーベイランスシステム(NASS)のデータを分析しました。なお、NASSデータにはARTのみならず医学的、産科的データが含まれています。8年間に1,271,775件のART周期が実施され、23,772件(1.9%)が外国人のART周期(147カ国)でした。外国人のART周期は、2006年に全体の1.2%でしたが、2013年には全体の2.8%に増加していました。米国人と比べ外国人のART周期は、平均年齢+3歳(36.1歳 vs. 39.3歳)、ドナー卵子4倍(10.6% vs. 42.6%)、代理懐胎8倍(1.6% vs. 12.4%)、PGS・PGD3倍(5.3% vs. 19.1%)となっていました。ドナー卵子周期が全周期の60%を超えている国は、日本、オーストラリア、フランス、イスラエル、ニュージーランドの5カ国であり、代理懐胎周期が全周期の40%を超えている国は、フランス、ドイツ、スペイン、イスラエル、スゥエーデン、ノルゥエイの6カ国でした。

 

解説:病気は全ての方に同じ割合で起こりますが、その治療については平等ではありません。お住いの国により地域により、受けられる医療の質と費用は大きく異なります。このため、国境を超えたメディカルツーリズムが、医療のどの分野でも急速に拡大しています。妊娠治療に関しても例外ではなく、米国には多くの外国人が訪れています。本論文は、米国での外国人のART件数を分析したものです。米国でのARTは基本的に何でもありですが(ただし、代理懐胎は一部の州では不可)、世界各国では宗教的あるいは社会的理由から、法律での規制のみならず自主規制も含め様々な規制がなされています。これらの規制が簡単に無くなることは考えにくいですので、今後もメディカルツーリズムが続くことが予想されます。

 

下記の記事を参照してください。

2013.1.30「世界の受精卵(胚)研究事情

2013.1.26「世界の着床前診断事情

2013.1.22「世界のドナー卵子&代理母事情

2013.1.13「宗教による生殖医療のルール:ユダヤ教

2013.1.9「宗教による生殖医療のルール:仏教

2013.1.7「宗教による生殖医療のルール:ヒンズー教

2013.1.3「宗教による生殖医療のルール:キリスト教

2012.12.30「宗教による生殖医療のルール:イスラム教

2012.12.31「☆各国の体外受精費用