本論文は、ビタミンDによる胎盤形成作用について基礎的検討を行ったものです。
Am J Reprod Immunol 2018; 79: e12796(韓国)doi: 10.1111/aji.12796
要約:絨毛癌細胞株の一つであるJAR細胞株を用い、ビタミンD(カルシトール 0.01〜0.1 μM)投与の有無によって上皮間葉転換(EMT)が変化するか否かEMTマーカにより検討しました。ビタミンD投与により、JAR細胞のEMTが促進され、同時に浸潤能が増加しました。また、ビタミンD投与により、MMP2、MMP9発現が増強し、ERKシグナル経路が活性化されました。ビタミンD投与によるこれらの変化は、ERKシグナル経路をブロックする薬剤(U0126)により消失しました。
解説:ビタミンD不足は妊娠中の女性の18〜84%にみられ、妊娠中の合併症(妊娠高血圧症候群、低体重児、妊娠糖尿病、不育症)との関連が認められることが明らかとなり、現在注目を浴びています。ビタミンD不測の原因は摂取量の不足と日光に当たる時間の減少にあります。ビタミンD自体には作用はなく、水酸化されて初めて活性を持つようになります。ビタミンD受容体は子宮内膜や胎盤にも存在し、ビタミンDには抗炎症作用、抗菌作用、胎盤形成作用があることが明らかにされています。一方で、着床成立の際には、絨毛外栄養膜細胞(EVT)が増殖しながら子宮内膜に侵入します。この状況はちょうど癌細胞が浸潤していく様子と似ています。上皮細胞が間葉細胞に変化する(EMT)ステップ(上皮細胞:Eカドヘリン→間葉細胞:Nカドヘリン、ビメンチン、フィブロネクチン)が癌細胞に備わっており、同様の仕組みが絨毛にも備わっているのではないかと考えられています。本論文は、ビタミンDがERKシグナルを介して絨毛細胞のEMTを促進することを示しています。つまり、ビタミンDによる胎盤形成作用のメカニズムの一つを明らかにしたものです。
下記の記事を参照してください。
2018.1.20「ビタミンD濃度と体外受精の成功率の関係:メタアナリシス」
2017.10.20「ビタミンD不足と不妊の関係」
2017.8.20「健康な女性におけるビタミンDと妊娠の関係」
2017.8.18「ビタミンDの効能:妊娠免疫の観点から」
2017.3.20「ビタミンD製剤は、不育症治療に有用?」
2016.12.8「☆ビタミンDの卵胞発育促進作用」
2016.12.5「☆不育症とビタミンDの関係」
2016.12.4「☆ビタミンD製剤はいつ服用すればよいか」
2016.3.31「妊娠中のビタミンD大量投与」
2014.10.26「☆ビタミンD不足だと妊娠率が低下する」
2014.4.7「☆ビタミンD不足で着床障害になる?」
2014.3.17「☆ビタミンD欠乏は不育症のリスク因子です」
2013.2.25「白人ではビタミンD濃度が高いと体外受精の妊娠率がよい」
2012.12.10「ビタミンDの効用 妊娠•授乳編」
2012.12.8「☆ビタミンDの効用 女性編 」