卵胞液中の環境ホルモン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、卵胞液中の環境ホルモンについて検討した初めての報告です。

 

Fertil Steril 2019; 111: 953(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.021

Fertil Steril 2019; 111: 885(スペイン)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.01.029

要約:2015年10〜11月に採卵した194名(20〜45歳)の方を対象に、採卵時の卵胞液を1つずつ提供していただき、8種類のフタル酸代謝物を測定し、各種ホルモンとの相関を横断的に検討しました。全てのフタル酸代謝物は卵胞液中に高濃度で存在していました。MMP濃度はE2、P4、テストステロン濃度と有意な負の相関を示しましたが、MEHHP濃度は有意な正の相関を示しました。また、MEP濃度とMEHP濃度はP4と有意な負の相関を示し、MBzP濃度はAMHと有意な負の相関を示しました。

 

解説:高分子フタル酸「DHEP」は、プラスチックをやわらかくする物質(可塑剤)で、主に塩化ビニルの可塑剤として使用されます。やわらかいプラスチックに含まれており、子供用玩具(歯固め、おしゃぶり)、医療器具(点滴バッグ•チューブ)、フィルム(食品包装、衣類包装)、壁紙、ビニル床材、テーブルクロス、電線コード、ワッペン、水着用バッグなどに幅広く用いられています。一方、低分子フタル酸「DBP」「DEP」は、化粧品に含まれており、色や香りを維持するために使用されます。フタル酸は容易に外の環境に溶け込みます。食品のパックから食品に溶け出したフタル酸は口から、化粧品から染み出したフタル酸は皮膚から吸収されます。このため、フタル酸は95%以上の方の尿から検出されます。DEHPの代謝産物がMEHPであり、DEPの代謝産物がMEPです。フタル酸は内分泌撹乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)のひとつとして知られています。フタル酸と男性不妊(精液所見低下)の関係はよく知られており、女性ではMEP濃度と妊孕性低下の関連が報告されています。本論文は、卵胞液中の環境ホルモンについて検討した初めての報告であり、フタル酸代謝物は卵胞液中に高濃度で存在し、各種ホルモンとの相関が認められることを示しています。

 

コメントでは、フタル酸の暴露の経路が記載されていないこと、実際の卵子の状態や培養成績および妊娠成績が検討されていないこと、卵胞内の細胞への直接作用が検討されていないことを問題点としてあげています。今後のさらなる検討が必要です。

 

ビスフェノールAについては、下記の記事を参照してください。

2018.5.23「ビスフェノールによる卵子の異常
2017.3.9「ビスフェノールAによる顆粒膜細胞の遺伝子変化

2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係

2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる

 

フタル酸については、下記の記事を参照してください。

2019.1.30「フタル酸と筋腫の関連 その2

2017.5.11「フタル酸と子宮筋腫の関連

2017.1.13「フタル酸暴露と女性の妊孕性低下

2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響

2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下

2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係

2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?

2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響