☆大学院生の妊娠に関する知識調査 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、大学院生の妊娠に関する知識を調査したものです。

 

Fertil Steril Rep 2020; 1: 177(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.08.002

Fertil Steril Rep 2020; 1: 166(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2020.10.007

要約:MBAの大学院生113名(男性26名、女性87名)を対象に、妊娠に関する知識をWebにより調査しました(横断研究)。質問は、男性に関するものが14問、女性に関するものが18問、合計32問からなります。約10%の方は、卵子は誕生した時に最大で、後は数も質も低下することを知りませんでした。30%以上の方は、35歳以上の女性の妊娠率を過大評価していました。50%以上の方は、40歳以上の女性のART妊娠率(体外受精、顕微授精)を過大評価していました。15%の方は、男性の精巣内には精子を作る幹細胞があることを知りませんでした(=精子は毎日作られる)。25%以上の方は、男性の加齢による精子の数も質も低下することを知りませんでした。約30%の方は、男性の年齢は妊娠成績(妊娠率、流産率)に影響を及ぼさないと信じていました。30%未満の方だけが男性の加齢による妊娠率の低下について正しく理解していました。

 

解説:最近、プレコンセプションケア(妊活前のケア)が注目されています。妊活前の妊娠に関する正しい知識が乏しいため妊活が遅れてしまい、その結果、妊娠率が低下し出生数が減少します。もちろん、妊娠治療によってある程度はカバーできますが、限界もあります。本論文は、極めて高い教育を受けているMBAの大学院生の妊娠に関する知識を調査したものですが、妊娠に関する知識は乏しく、加齢に伴う男女の妊孕性の低下をご存じなく、妊娠治療を過大評価していました。もっと若い世代での妊娠教育が必要であるとしてます。

 

コメントでは、妊娠に関する知識は若い産婦人科医での調査(Hum Reprod 2016; 13: 403)でも大差ありませんので、結局のところ中高大学生での性教育が不十分であると言わざるを得ないとしています。米国でも、性教育は「sexの教育」であり、STDや妊娠を避ける「安全なsex」の教育です。しかし、本来は「sexの教育」だけでは不十分で「妊孕性の教育」が早い段階で必要です。男女とも加齢による不妊症を防ぐ唯一の方法は「予防」しかありません。「妊孕性の予防」とは、早い段階で「妊孕性の教育」をすることにより、将来の人生設計の中に家族計画(お子さんを産み育てる計画)を組み込むことです。今後の性教育は、「sexの教育」→「妊孕性の教育」→「妊婦の教育」の流れになるのが良いでしょうとしています。

 

男女とも加齢とともに妊孕性が低下するのは、丁度、砂時計の砂が落ちていくようなイメージです。砂時計の大きさも砂が落ちるスピードも人それぞれ違います、いつ無くなるか誰にもわかりません。プレコンセプションケアは、生殖医療に携わる産婦人科医と泌尿器科医が率先して、声を大にして行う必要があります。リプロダクションクリニック では、2020年初めからプレコンセプションケアに取り組んでおり、その取り組みが2020年10月26日の日本経済新聞で紹介されました。私たちは「不妊症を作らない」取り組みが極めて重要なポイントであると考えており、2025年の大阪万博「TEAM EXPO 2025」共創チャレンジでその成果を報告する予定です。

 

下記の記事を参照してください。

2013.3.17「オーストラリアの妊娠(不妊)教育」オーストラリア、18〜45歳、462名

2012.11.18「高校生の意識調査 その2」スウェーデン、高校生、247名

2012.11.15「高校生の意識調査 その1」カナダ、18高校、772名