本論文は、オーストラリアにおけるART治療(体外受精、顕微授精)と人工授精の変遷についての国家規模の検討です。
Hum Reprod 2022; 37: 1047(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/deac032
要約:2009〜2017年のオーストラリアニューサウスウエールズ州とオーストラリア首都特別地域の出生登録、ART登録、疾病登録などをもとに、898,084名の出生児(606,488名の母親)について後方視的に検討しました。出生は、妊娠20週以上あるいは400g以上の児の出産としました(死産も含む)。全体の出生に占めるそれぞれの治療の割合は下記の通り。
2009年 2013年 2017年
ART治療 3.1% < 4.2% < 4.8%
人工授精 2.0% = 2.0% = 1.9%
女性の年齢別ART治療において、全体の出生に占めるそれぞれの割合は下記の通り(人工授精では年齢に関わらず横ばい)。
ART治療 2009年 2013年 2017年
40歳以上 11.3% < 13.7% < 17.6%
35〜39歳 5.9% < 7.8% < 8.3%
30〜34歳 2.9% < 3.9% < 4.3%
30歳未満 0.7% = 1.1% = 1.0%
特記すべきこととして、ART治療では凍結胚移植が3倍に増加し、人工授精ではクロミッド周期が40%減少、レトロゾール周期が56倍に増加していました。
解説:ART治療のデータは世界各国で登録データがありますが、人工授精のデータはほとんどの国で登録制になっていないためデータ解析は実施されていません。オーストラリアは年齢制限なくART治療と人工授精が実施でき、登録制になっているため、人工授精を含めたデータ解析が可能です。本論文は、このような背景のもとに行われた、オーストラリアにおけるART治療と人工授精の変遷についての国家規模の検討です。ART治療は年々増加していますが人工授精は横ばいであること、ART治療は高齢女性の割合と凍結胚移植が増加していること、人工授精ではクロミッド周期が減少しレトロゾール周期が増加していることを示しています。日本では人工授精の登録がなされていませんので不明ですが、ART治療は同様の傾向があります。
なお、本論文は編集長の今月のイチオシの論文です。晩婚化や晩産化によりART治療の増加は世界的な流れだが、本当に正しい選択なのか、晩婚化や晩産化を食い止める方策がなされているかについて問いかけています。