本論文は、卵巣移植の理想的な場所について正所性と異所性を比較したものです。
Fertil Steril 2024; 121: 72(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.10.01
要約:卵巣組織移植を実施した12名(正所性移植6名と異所性移植6名)を対象に、卵巣ホルモン機能の回復だけを望んでいたレシピエント1名を除いた11名が採卵を実施しました。正所性移植は全て腹腔鏡で実施し、異所性移植の5名は局所麻酔かセデーションで皮下に移植しました。卵巣移植の成績は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
正所性移植 異所性移植 P値
採卵時年齢 20.3歳 < 31.5歳 <0.001
移植時年齢 30.2歳 < 35.7歳 0.03
移植片個数 51個 < 87個 0.003
機能までの期間 14.8週 14.2週 NS
効果消失の時期 59.5ヶ月 40.0ヶ月 NS
成熟卵数 13.5個 6.2個 NS
受精率 97.0% > 26.5% 0.002
受精卵数 8.8個 2.8個 NS
分割胚数 8.0個 > 1.0個 0.01
NS=有意差なし
なお、全ての移植片で卵巣のホルモン機能が回復しました。正所性移植を行った6人中4人が妊娠し7人のお子さんを出産しました。また、異所性移植の1名は卵巣組織移植後に3回の自然妊娠および出産を経験しましたが、おそらく残りの(閉経状態の)卵巣機能が活性化されたものと考えます。
解説:2000年に初めて正所性卵巣組織移植が報告され、その後いくつかのアプローチによる異所性移植も行われています。正所性移植では、移植された卵巣組織からの直接排卵の結果として自然妊娠が可能な場所(骨盤内)に卵巣組織が移植されます。一方、異所性移植では、移植卵巣組織は骨盤から離れた場所(通常は皮下または腹膜)であり、基本的に自然妊娠を目指したものではありません。皮下移植のメリットは外来で実施できることであり、癌の治療などのため正所性移植ができない場合や、移植組織内に潜在癌の懸念がある場合に行われますが、これらの適応は比較的まれであるため、異所性移植はめったに実施されません。そのため、異所性移植のデータが不足しています。本論文は、このような背景の元に行われた同一施設、同一医師による正所性卵巣移植と異所性卵巣移植の成績を比較したものであり、妊娠を目指している女性は正所性移植を、卵巣ホルモン機能の回復だけを望む女性には侵襲性の低い異所性移植が良いとしています。
卵巣凍結については、下記の記事を参照してください。
2023.11.25「ターナー症候群の妊孕性温存:卵巣凍結」
2023.2.7「卵巣凍結の妊娠成績」
2021.6.4「妊孕性温存 ②卵巣凍結」
2020.9.28「卵巣凍結の最新情報」
2019.12.5「卵巣凍結後のART成績」
2019.6.27「ターナー症候群の卵巣凍結」
2018.5.7「癌患者さんの妊孕性温存には卵子凍結か卵巣凍結か」
2018.3.4「卵巣境界悪性腫瘍の卵巣凍結の安全性は?」
2016.10.3「卵巣凍結の実用性は?」
2015.12.13「卵巣移植の成績」
2015.11.24「体外に取り出した卵巣からの卵子吸引採取」
2015.8.18「卵巣の皮下移植で自然妊娠成立!?」
2015.6.21「ヒト卵巣組織の動物への移植」
2015.3.5「卵巣凍結•移植の成績」
2014.6.10「人工卵巣:癌の方の卵巣凍結に光明が、、、」
2014.6.3「卵巣凍結の未来」
2014.2.17「思春期前の卵巣凍結の可能性」
2013.9.16「卵巣凍結の進歩」
2013.8.15「☆癌が見つかり妊娠の可能性を残したい時」