不妊症におけるChatGPT | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、不妊症におけるChatGPTについてのオピニオンです。

 

Hum Reprod 2024; 39: 443(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/dead272

要約:多くの方は情報源としてインターネットを使用していますが、強いストレスを感じている方、あるいはうつ状態の方にとって、インターネットで得られる情報が常にニーズを満たしているとは限りません。不妊クリニックのウェブサイトの監査では、しばしば不正確または不完全な情報が掲載されていることが明らかになっています。また、そこに記載されていない情報もあります。OpenAIによって開発された会話言語モデルであるChatGPT2022年11月に導入され、人工知能言語モデルは常に進化していますが、この技術を社会のさまざまな分野に、いかに統合できるかについては多くの問題が残されています。ChatGPTのトレーニングに使用される情報は一般には知られていませんが、非常に大量の非公開のオンライン情報570GBが使用されたこと、非公開の方法で人間によるモデレーションが適用されていることだけが判明しています。ChatGPTを用いて、医学部や法学部の試験で合格点が得られたという報告があります。例えば、最新版のChatGPTでは皮膚科の試験で90.5%の正答率が得られています(過去のバージョンでは63.1%)。病院の術後指示についてChatGPTとGoogle検索で比較したところ、ChatGPTはGoogle検索と同等かそれ以上のパフォーマンスを示しました。しかし、医学は日々進歩しますので、トレーニング データに低品質の情報や古い情報が含まれていると、誤った回答を出します。また、単純な質問(プロンプト)では80%の精度がありますが、質問の意図が不明確な場合の精度は64%に低下します。ChatGPTがどのような場合に有効なのかを知り、効果的な質問(プロンプト)をすることで、ユーザーはこのツールが提供する最大限の効果を得ることができます。しかし、プライバシー、信頼、説明責任、偏見などに注意して取り組む必要があります。現時点では医療専門家が優位であることに疑いの余地はありませんが、今後のトレーニングと実践によりChatGPTが活躍する場面も増える可能性があります。

 

解説:医療現場でのChatGPTの可能性は、確かにあるかもしれませんが、あくまでもデータ(エビデンス)に基づく診療に特化されるでしょう。新しい治療や医師の経験に基づくひらめき、患者さんそれぞれの特性を活かした診療は到底できません。不妊症の分野はわからないことばかりですので、本筋の流れに沿った治療をすることはできますが、本筋から外れた治療は一切できなくなります。ちょうど、保険と自費の関係に似ています。近い将来、ChatGPTで保険診療ができるようになったとしても、ChatGPTでは自費診療への対応は難しく、そこに専門家の活躍の場が残されているように思います。