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松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、肥満女性における低カロリー食の効果に関する検討です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 801(米国)doi: 10.1093/humrep/deae017

要約:肥満女性12名(体脂肪率>35%、24~34歳)を対象に半年間の低カロリー食を導入し、排卵周期について肥満でない女性21名(体脂肪率<35%)との比較を前方視的に実施しました。低カロリー食により体重は平均11%減少し、開始時と比べ7ヵ月後の10mm以上の卵胞数が有意に増加し(0.3→0.4卵胞、P=0.001)、卵胞径も有意に増加しました(7.3→10.9mm、P=0.007)。排卵後の黄体ホルモンも有意に増加しましたが(5.3→6.3、P<0.0001)、黄体期の長さ、黄体ホルモン積算値、最大黄体ホルモン値に有意な変化はありませんでした。

 

解説:肥満は女性の卵巣機能と妊孕性に悪影響を及ぼすことが知られています。肥満でない女性は、胞状卵胞が次々と動員され、その中で1 つの卵胞が発育し排卵します。しかし、肥満女性は、卵胞リクルートの減少、優勢卵胞の減少、卵胞径の減少、黄体機能不全など、卵胞発育が抑制されています。肥満女性の減量後のホルモン濃度の改善については報告されていますが、減量が卵胞動態に及ぼす影響については検討されていませんでした。本論文は、このような背景の元に行われたパイロット試験であり、肥満女性における低カロリー食は卵胞発育動態を有意に改善することを示しています。しかし、この状態が持続するかどうかについてはさらなる研究が必要です。

 

下記の記事を参照してください。

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