気分の変化につきあうポイント
躁状態とうつ状態を繰り返す躁うつ病は、躁うつ病者本人も気分の波の大きさに非常に疲れますし、それに振り回される周囲も疲れます。
特に周囲が直接的に暴力をうけたり、罵詈雑言を浴びせられたりするのが躁状態のときです。気分が爆発的に高揚している躁状態のときの、画期的な解決方法は残念ながらありません。しかし、いくつかの禁止事項はありますので見てみましょう。
指摘しない
「ちょっと変じゃない?」などと指摘すると感情を爆発させて「私がおかしいなんて、あなたはなんてことを言うの!?」といった具合で返ってきます。躁状態は非常に自分に自信があって、「オレ様」のような気分になっています。
おかしいことを伝えたい場合は、「あなたが変」ではなく、「私が心配」と伝えてあげてください。
見守る
口を挟まない
「おまえってウザイよな」「あいつってホントバカだよな」といったぐらいの言葉ならば、受け流してあげてください。
止めない
ひとりで「やっほー!」「すげー!」などとはしゃいでいたり、安全な範囲で歩きまわっているならば放っておいてあげましょう。しかし、他人に迷惑や危害を加えるような行動に出た場合ははっきりといけないことだと伝え、止めてあげましょう。
反論しない
「自分の考えがすべて正しい」などと内容が突飛な話を本気でします。このときは、「そうじゃないよ」などと正そうとせず、気のすむまで聞いてあげてください。このときに、どういうリアクションをとるべきか?など考える必要はありません。
気分の変動に付き合わない
躁状態の後はうつ状態がやってきます。あまり躁状態で盛り立てるようなことをすると、うつ状態での落ち込みが大きくなりますので、振り回されず、冷静に接してください。
躁状態のときはよく話しますし、攻撃的にもなります。そのときに対立してしまうのではなく、「症状が強く出てきたな」くらいにとらえるようにしてください。
躁うつ病者が躁状態のとき、症状によっては非常に迷惑を被ります。しかし、そういったときに「病気だからしかたがない…」などと見守ってしまうと、躁うつ病者本人にとってもよくありません。暴力や暴言などはほとんど自分の意志ではないですが、一番よくないのは躁状態の後にやってくるうつ状態です。
実は躁うつ病は自殺による死亡率が高い病気です。躁状態のときにやってしまったことをうつ状態になったタイミングで激しく後悔し、「もうやっていく自信がない」となってしまいます。そのことを頭において、接する必要があります。
<激しい躁状態の対策>
〇いけないことはいけない
暴力をふるったら「やめてください」、暴言を吐いたら「謝ってください」など自分の態度をしっかり示してください。
〇ルールをつくる
・日中どうしても話がしたくなったらこの携帯電話に電話してよいが、深夜から早朝はダメ
・暴力が止まらなくなったら病院に連絡する
・自分のお小遣いの範囲内なら何を買ってもいい
・生活費を遊びに使ってもそれ以上は出さない
・通帳や銀行員、キャッシュカードは家族が管理する
などのルール決めをしておくと対応がスムーズですし、本人も納得がしやすいです。
躁うつ病者のまわりの方にとっても「これ以上されたらもう無理だ」というラインは大切です。躁うつ病者に対してしっかり拒否ができますし、何よりも自分の気持ちが楽になります。しかし、病状が悪いときはそのラインを示したとしても、それに従ってくれないかもしれません。そうなったら、病院に連れて行くなり、入院させてしまうなりという対処をとってください。躁うつ病者のためにも周囲の方々のためにも必要なことです。
躁うつ病の方が躁状態に転じて「軽躁状態」になって活動性が高まっても、まだ行動にまとまりがあります。
しかし、さらにそれがエスカレートすると、今度は本格的な躁病の躁状態になってしまいます。
躁病の躁状態の活動は、ただ言動そのものが高まって忙しいだけではありません。
いまコレをしていたと思うと、すぐにアレをしている。ある人に話しかけていたかと思うと、すぐ別の人に移る。そんなくるくるとめまぐるしい「転動性」があります。
「支離滅裂」は、活動性の高まりと、この転動性が増大して組み合わさっています。
とにかくつかみどころがなくて、ころころ移動しくるくる動き回ります。
上機嫌となり、話し相手をも自分の感情に引き込んでしまう傾向があります。
そして、この「上機嫌」は「自己評価高揚」にもつながります。
ですから、この時期に、相手に対して尊大な態度に出ると、すぐに喧嘩になります。
要するに自己評価高揚から誇大妄想につながっていき、自分は「誰よりも偉い」になってしまうのです。
この時の攻撃性は耳を塞ぎたくなります。
テーブルをバンバン叩きながら、「あなたはねっ!」と同じ説教じみた文句を延々と言い続けます。相手をせずにいると、大声で「○○さんはねっ!こんなヤツなのよ~!」と延々と叫び続けます。
こちらは散々文句を言われ怒鳴られて疲れていても、やがて時間が経つと、けろりとして握手を求めてきたりするので、とにかく振り回されてしまいます。
これは全ての人に有効というわけではないかもしれませんが、躁うつ病の方の視野が過去に向いているというのを実証するように、不思議と会話を過去の話に持っていくと、次第に会話にまとまりが出てきたり、怒りが収まってくることがあります。
過去の話とは言っても、難しい話ではなく、その頃流行していた歌のことだったり、修学旅行に何処に行ったとか、そういう簡単なもので良いようです。
どちらにしても、躁病の躁状態は会話にならないことがほとんどなので、「あぁ」「うん」「そうなの?」と短く返事をしつつ、態度はあくまで「下手(したて)」に出つつ、怒り出す前に話を早めに切り上げる方が賢明なようです。
躁うつ病者のまわりの人間は、治療ができるわけではありませんので、そっと見守ってあげることを求められます。しかし実際、躁状態になったらおしゃべりがとまりませんし、よく笑いますし、メールや電話の量が半端ではないこともあります。「無視するわけにもいかないし」と、つい頑張ってしまうこともありますが、頑張る必要はありません。躁うつ病者のまわりの方が疲弊してしまって、躁うつ病者ともどもダメになってしまうことが一番大変です。では、躁状態の行動を断ち切るにはどうしたらよいのでしょうか?
〇断ち切る
弾丸トークが止まらない。意味不明の話を聞き続けているのがつらい。
そうなってしまったら、自分が疲れ切ってしまう前に切り上げてしまいましょう。「仕事があるので電話を切ります」「携帯の電池が切れてしまいました」「もう遅いので寝ますね」などと言ってシャットアウトしてよいです。
躁うつ病者の人は一見楽しそうに話していますから、ついつい変な気をつかって話に付き合ってしまうのですが、実際躁うつ病者本人は歯止めがきかなくなっており、エネルギーが枯れ果てるまでしゃべります。その状態は本人にとってもよくありません。
〇干渉しない
「仕事してみたら?」「だらだらするのもそろそろやめて…」などできないことを求めていないでしょうか。特に家族の場合、四六時中一緒にいるので「いい加減に…」という気持ちからつい小言を言ってしまいます。しかしそれはケンカの原因をつくっているだけです。
また、「そんなことしたら嫌われちゃうわよ」「あとで後悔するのは自分よ」などと心配をぶつけてしまうこともあると思います。しかしそう言ったからといって行為をやめるわけではありません。ある程度までは本人の責任と割り切ることも、それを躁うつ病者に言葉にして伝えることも必要です。
大切なのは躁うつ病者を嫌いになる前に距離をとってしまうことです。躁うつ病という病気だからしかたないんだとわり切れたらどんなに楽かと思いますが、実際大人であっても、そうそう立派な人間ができているわけではありません。躁うつ病者に対して、変わらぬ自分を貫き通せるかどうかを念頭に、上手にお付き合いしてください。