Bygones/ 顔に泥がついている育児ブログ+css* -336ページ目
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 Richard Won という男

彼は、大抵海外で仕事をしており、私はなかなか彼と会うことができなかった


それでも、彼は何とか日本に戻ってきては、時間の許す限り私のところにやってきた


私は当時、まだ実家に住んでいて

彼のやってくる時間があまりにも早すぎたり遅すぎたりする時間であったため

(空港からタクシーで直で来るためだ)

彼は私の部屋の窓を、外からこつ、こつ、と叩いて私を呼んだ




帰ったよ




もともと笑っていなくても笑っているような細い目

それが好きだった




メールのひとつでもくれればいいのに、彼はメールは絶対にしない

電話だけ




彼が恋人であることは、家族から猛反対を受けていた

日本人ではないことよりも、彼の、あまり世間的に評判のよくない仕事が

彼の印象をまるごと悪いものに変えていた


ちょっとその業界に知識があれば、すぐに名前のでてくるような男だったのだ





それでも、私は彼に会えることが嬉しかった

彼が、私の恋人であることがずっとずっと夢の中にいるかのように

信じられなく、だから実感できるときがあまりにも幸せだった

彼から電話がかかってくるとき、彼がこつ、こつと窓を叩くとき





彼がまた、帰ってきてくれるという日


私は家族を一生懸命説得して、私たちの付き合いを許して欲しいと話した

家族はやがてわかってくれて、今日彼が来たら

暖かく迎えてくれると約束してくれた


でも、彼は現れない


ここに来れるのは早朝のはずだったのに、彼が窓を叩くことはなかった


私のあまりの落ち込み様に、

付き合いを一番反対していたはずの叔母までが私を慰めてくれた



会えないことには慣れている

きっとなにか上手くいかないことがあって、彼はここにこれなかったのだ


でもひどく私は落ち込む




なぜだろう、でも、今日じゃなければいけなかったのだ




私はすぐに日本を出なければならなかった

会社の研修は海外で行われるのだ


飛行機に搭乗してもずっと彼が過去に、私の携帯に電話を寄越した時の着信画面を見ながら

(そのままひとつボタンを押せば私から電話することもできるのに)

このまま、永遠に彼から離れるような気がした


もう電源を切らないといけない


電話はかかってこない











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