fulltimelife マガジンハウスが配布している小冊子、「ウフ」で連載されていた作品。
著者の会社員時代の体験をもとに、新入社員の仕事とプライベートを淡々と描く新人OL小説。


主人公・喜多川春子は美大を卒業後、エビス包装機器に入社し、経営統括部に配属された。
社内報の作成から雑用までを任され、日々覚えることばかりで戸惑いながらも会社員とはこういうものかなと思って毎日を過ごしている。
就職しなければ知ることもなかったシュレッダーの使い方や、細々した文具の名前、社内で何年も決まりごとのようになっている暗黙の了解のルールなど、毎日通う会社に新鮮さを感じ、新人としてそれなりに会社員というものを楽しんでいる。
同じ部署の先輩・桜井さんや、毎日お昼を食べる長田さんなど、毎日同じことの繰り返しのような毎日が心地よい。
穏やかに見える会社員生活にも、展示会や同期の退社、リストラといった事件も起きる。
プライベートでは大学の同級生・樹里とライブのフライヤー作成などを行い、それなりに充実していた。
恋に破れたり、いいなと思う人が現れたりもして、春子は会社員一年目を確実に一歩ずつ積み重ねていた。
仕事の要領を得、少しずつ会社の中の流れを把握してきた春子。
新人社員の日常をリアルに描いている。


初めて著者の作品を読んだ。
読みやすくなかなか面白かった。
自分が会社員一年目だった時のことを思い出した。
確かにシュレッダーとの出会いは衝撃だったし、上司からどうでもいいような用事を言いつけられることも多かった。
先輩女子社員の言動に揺れ動き、誰かが辞めるとすごく悲しかった。
そんな気持ちが薄れてきて、退職を喜んであげられるようになったのはいつからだろうか?
誰かがいなくなっても、仕事は回り会社も動いていくことを悟ったのはいつだったろうか?
忘れていた何かを思い出させてくれた、青春モノっだった。
5月から2月までの10ヶ月ごとに分かれていて、季節ごとに変わる社内の風景や主人公の心がリアルで面白かった。


<マガジンハウス 2005年>


著者: 柴崎 友香
タイトル: フルタイムライフ