narata 大学二年になって高校の頃想っていた先生から連絡があり、あの頃へ引き戻される女学生と先生の切なくて儚い恋の物語。


主人公・工藤泉は大学生。
両親はドイツへ赴任中で、ひとり暮らしをしていた。
或る日、社会科の教師で泉が所属していた演劇部の顧問だった葉山から電話がかかってきた。
泉も所属していた演劇部の部員が減ってしまい公演が難しいので協力して欲しいと言う。
「本当にそれが理由か」と尋ねる泉に、葉山は「ゆっくり話したいと思った」と答える。
高校三年の時に赴任してきた葉山は、泉が対面していた他の生徒との問題を察し優しくしてくれた教師だった。
そして、泉の好きな人だった。
葉山は心に深く傷を負っていることを知っている泉に、時々救いを求める。
泉は一方通行でも構わないから、そんな葉山の側に居たいと考える。
週末を使って母校へ通い、現役演劇部員とOBを交えた公演の練習がスタートする。
週に一度は葉山に会うことになり、少しずつあの頃のように会話を交わしていく二人。
泉は凍っていた思いが溶け出すのを感じながらせつない日々を過ごす。
OBだけでは足りないメンバーに、OBの大学の友人・小野が加わる。
小野は泉に恋をし、想いを告げる。
泉は葉山を想い一度は断るものの、葉山との微妙な空気や手に出来ないんだと実感する現実に耐えられず優しい小野を受け入れることを決める。
小野との交際は普通の大学生の恋愛で、楽しく日々は流れた。
しかし、ある晩かかってきた葉山からの電話で再び泉の心に亀裂が走る。
現役演劇部員の死、葉山が更に傷つく出来事、小野の別れなど、様々なことが泉を襲う。
葉山への思いを断ち切れない泉と、泉を想いながらも捨てられないものがある葉山を描く長編。


最後の、泉が社会人になってからの数ページでなんだか堪らなくなり泣いてしまった。
久々に恋愛小説を読んで泣いてしまった。
こういった類の恋愛小説に感情移入することは少ないのだが、気付いたらごっそり心を持って行かれていた。
主人公たちの危うさや歯がゆさに襲われ、ページをめくる指が焦った。
一気に読んで、読み終えてから凄い疲労に襲われた。
誰かを想い、愛することはこんなに深かったんだなと思い、自分はそんな恋をしたことがあったろうかと考えた。
私はこんな恋愛をしたくはないと結論を出した。
『ナラタージュ』という名のとおり、今→過去→今という全体の構成が素晴らしく生きている。
最初の今を読んで途中「ああ、こういうことか」と思ったのは全く間違いで最後の今には凄く現実的な結末と理想的な結末が待っていた。
ある程度、恋愛の経験をした人間の方が心にずしんとくる小説だと思う。
期待を裏切られることなく、読み終えられた1冊。


<角川書店 2005年>


島本 理生
ナラタージュ