愛情について学ぶ⑧ ~資本主義社会の影響~
『愛情について学ぶ』の記事は
・フロム『愛するということ』 2014年2月 (100分 de 名著)
の2冊の本を参考にしています。(引用は一部要約しています)
ここまで、未成熟な愛と、成熟した愛の違いについて、また、さまざまな愛の種類について考えてきました。
次に、フロムは、現代の資本主義社会が、人間の愛にどのような影響を及ぼしているかについて分析しています。
資本主義社会は、経済を中心に動いている社会です。
労働者は、自分の労働力(商品)を資本家に売り、そうして手に入れた貨幣を、商品と交換したり、消費したりして、生活しています。
甘い食べ物、美味しいお酒、きれいな洋服、魅力的なアイドル、次々と新しくなるIT機器、カラオケや映画、テーマパークなどの娯楽産業・・・、私たちの周りには、消費欲や購買欲がかき立てられる商品があふれ、消費は増大し続け、市場は拡大し続けています。
経済を中心として動いている社会に巻き込まれていくうちに、私たちの性格は、交換と消費に適応していきます。
それは物質的なものだけではありません。
精神的なものまでもが、交換と消費の対象となっていきます。
フロムは、現代の愛をめぐる状況は、現代人のそうした社会的性格に呼応しているのだとしています。
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現代人は自分を商品化してしまった。
最大の目標は、自分の技能や知力を、また自分自身を、つまり「人格のパッケージ」を、できるだけ高い値段で売ることである。
相手もまた、公平で有利な交換をしようと血まなこになっている。
人生にはもはや、前進する以外に目標はなく、公平な交換の原理以外に原理はなく、消費以外に満足はない。
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労働者は、さまざまな知識を身につけ、資格を取得し、自分の商品価値を高めて、できるだけ高い収入を手に入れようとします。
資本家は、できるだけ良い労働力(商品)を手に入れようと、試験や面接で労働者を見比べます。
これってまさに、現代の就職活動を表しているなぁと思います。(この本が執筆されたのは、1950年代ですが)
自分自身の労働力や技能が商品化され、市場の原理で交換されるという社会構造の中で生きるうちに、人は、愛情も、交換と消費の対象にしてしまったのかもしれません。
私がこれだけ愛しているんだから、あなたも同じぐらい愛してほしい。
私はあなたのためにこれだけ行動したんだから、あなたも同じぐらい私のために行動してほしい。
そんな見返りを求める愛や、公平な交換を望む愛は、資本主義社会の価値観の影響を受けて、生まれてきたのかもしれません。
自分自身が商品化されていく社会では、価値(需要)がなければ切り捨てられたり、売れ残ったりしてしまうという焦りや不安が生まれます。
現代社会で多くの人が感じている、生きるしんどさや息苦しさは、こんなところにも一因があるのかもしれないなぁと思います。