ときどき、理由もないのに、どうしても雪が見たくなることはありませんか。
それは「理由がない」のではなく、何か大きな力に導かれているのかもしれません。
田村カフカ少年は、夜行バスで海辺の町(高松)に行きました。少年は図書館に通い詰め、会えるはずのない姉と母に再会します。
辰つぁんは仙山線で、雪の山形に出かけました。
遊学館に通い詰めたら、生きていない誰かと出会い、幼児期の心の欠落が埋められるかもしれません。
3日前に13cm積ったと聞いたのに、駅前はこの通り雪が少なかった。
出迎えてくれたのはハモニカおじさん。
このおじさんには去年の春、霞城公園でも会った。高校の校長先生にそっくりだと思った。
のどが渇くのだろうか。手許には牛乳とそば茶が置いてある。
おじさんは辰つぁんに、「ふるさと」「ユモレスク」「鉄道唱歌」を吹いてくれた。
大福まんじゅうが20個ほど焼きあがっていた。
「おばちゃん、ひとづけでけろ」
この焦げ具合が絶妙。焼きたてを歩きながら頬張るのが一番うまい。
どうしても気になる場所、東宝(スカラ座)跡。
かろうじて「東宝」のマークが残っているが、年々文字は薄くなっている。
驚くことに「スカラ座」の看板はそのまま。解体する資金もないのか。
七日町交差点の梅月ビルは1階にドトールが入っている。
渋谷食品店でも大福まんじゅう販売中。(今日はもういい)
去年閉館した旭座はさらにくすんだ感じになっていた。
周辺に全く人通りがない。
そうそう、南側の非常階段にはいつもこのように雪が積もるのだったな。
閉館の決まったオーヌマホテル。
部屋は空いているそうだ。
庭園にはドッグ・カフェもあった。わが家のdaisukeにそっくり。
夜、金山君の店に行ってみる。金山君は「金山君のクリスマス」で登場した幼馴染。
店は普段がら空きなのに今日は満員だ。
「珍しい人(辰つぁんのこと)来たからったな。今から雪降っぞ。」
そういえば古い付き合いなのに、二人で撮った写真が1枚もないのだった。
ものすごい降り方で、道路はあっというまに真っ白。
雪の降る山形を歩くのは何年ぶりだろう。
辰つぁんは大喜び。
ウィスキーと本があればどこでもわが家になる。
それにしてもこのホテルは落ち着く。
本はもちろん「海辺のカフカ」を持ってきた。
風呂に入っている間に、窓の外は銀世界になった。
深夜、父と母が枕元に立った。
父は黙って笑っていた。
母は、「辰つぁん、まだこっちに来てはだめ」と言った。
父にもらった「時」は たゆまず刻まれている。
母にもらった「愛」は まだ暖かい。
そこにばあちゃんもいるの? 痛がってないか?
と聞いたら、父も母もセピア色に変わり、そして消えてしまった。
二人は寺町に眠っている。ホテルから目と鼻の先だ。
思いがけなく息子が来て、驚いただろうか。
それとも滅多に来ない息子を呼んだのだろうか。
寺町は繁華街に隣接した霊界であり、このホテルはその北東、すなわち鬼門に当たる。
ホテルのどこかに、神々が出入りする「穴」があるのかもしれない。
「ナカタさん」が雪を降らせ、冥界の扉を開けたのだろうか。
・・・はい、ナカタが雪を降らせ、石の蓋をどけたのであります・・・
なんてね。
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人気の洋風朝食
1泊朝食付で5000円だった。朝食1260円+宿泊料3740円はお得。
このホテルの営業は3月30日までだが、宿泊は3月11日で終了する。
専称寺
雪はいい。すべてを無かったことにしてくれる。
旭銀座(シネマ通り)
父も、母も、祖母も歩いた道。
車道の雪は歩道に寄せられ、歩行者は車道を歩くようになる。
向こうから来るのは父ではないか、と一瞬思う。
昔、新宿の占い師に、あなたには強力な守護霊がついている、と言われたことを思い出した。
雪の道を歩けてよかった。
雪の上を歩いていると、転ばないようにする以外はなにも考えなくても済む。
心の中で何かがリセットされた。