復讐者の悲劇・無神論者の悲劇 (エリザベス朝演劇集)/白水社
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小田島雄志訳のエリザベス朝演劇集シリーズ第4巻は、シリル・ターナーです。

ターナーなのにタイトルがトマス・ミドルトンになっている理由は、

ごくごく最近、『復讐者の悲劇』の作者はミドルトンである、というのが定説になったから。

『無神論者の悲劇』は、変わらずターナー作です。

こちらはあまり面白くないのだけれど・・・・・

『復讐者の悲劇』は、面白い!

この作品はジェイムズ一世の治世に書かれたものなのに、『エリザベス朝演劇集』に入っている理由は

ジェイムズ朝演劇も、エリザベス朝演劇に引っ括められることが多々あるからです。



タイトルから見て、復讐悲劇なのは一目瞭然。

『ハムレット』やキッドの『スペインの悲劇』に代表されるこのジャンルは、

セネカの悲劇に大きな影響を受けている・・・・・・とよく言うので、セネカも10作品くらい読んでみたのですが

・・・・・・・流血??ドロドロ??復讐?????

な気が否めませんでした。つまり、そんな面白くもなかったよ。

さて、今回の『復讐者の悲劇』は・・・・・登場人物がわけわからなくなります。


公爵がいて、

公爵の先妻の息子がいて、

公爵の私生児がいて、

公爵夫人の連れ子が何人もいて・・・・・・


エリザベス朝演劇には慣れているはずなのですが、(あたりまえだ)

さらに翻訳なのに、

1回読んだくらいでは頭に入ってきません。


でも、ドロドロしてて、てんこもりで、面白いですよ!


公爵を中心に展開される愛憎劇。

いや、「愛」はないか?


実の息子にも、愛されていない公爵。


公爵に、自分の娘が愛されている(正しくは肉欲に駆られている)と知ったある母親は、

一向になびかない娘に向かって、さっさと操を与えてしまえ、と説得をします。

操正しい娘は、母に向かって

「ごめんなさい、私、あなたを見まちがえていました。

母を見ませんでした? どっちへ行ったのかしら?

母が迷子にならなければいいけど。」


さらに、その母親の息子(変装中)が、公爵に頼まれて

実の妹をなびかせると、約束をしてしまう。

約束をしてしまった以上、それを果たさなければならないが、

当然兄としてはそんなことはしたくない。

いちおう、妹を説得しに行くのです。変装をして。※変装をしたら誰も気付かない、というのはお約束。

兄が望んだとおり、貞節な妹は、(変装中の)兄の頬をうって、憎しみの伝言を託します。

「たたかれてこんなに甘い香りをかいだことがあるか、

平手打ちがこんなに美しい模様を残したことがあるか!」


ネタバレになるので伏せておきますが、

ある人物が、ある人物を、ある人物の骸骨を使って毒殺します。

小田島氏と同じく、私も『ハムレット』を思い浮かべました。

この毒殺の方法が、凄いのです。

戯曲って、

ト書きで (死ぬ)

のようにあっさりとした死を迎えがちですが、この殺され方は残酷・・・・・・。

でも、殺されても仕方ないような人物なのですよね。

作品後半になると、ばったばった人が死んで、

結局誰が生き残ったのかよく分からない感じです。


上記引用部は、思わず『尺には尺を』を思い浮かべてしまいます。

それもそのはず!というわけではないのだけれど、

トマス・ミドルトンってシェイクスピア『尺には尺を』や、『アテネのタイモン』などの執筆者の一人だと言われています。


代表作としては、デッカーとの合作とされる『貞淑な娼婦』、『チープサイドの貞淑な乙女』、ローリーの合作『チェンジリング』など。


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『復讐者の悲劇』の映画化作品だそうです。

タイトルそのまんまだ。


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エリザベス朝、ジェイムズ朝演劇で、キッド、マーロウ、グリーン、デッカー、ヘイウッド、ジョンソン。ターナー、ボーモント、フレッチャー、ウェブスター、ミドルトン、フォードの戯曲14作品が収録。


ものすごく重宝する1冊、


村上大場小津平井小田島笹山三上など、翻訳者が素晴らしすぎる。