こんばんは♪
さて今回は夢幻の更新です!
いよいよ!ヨンの登場です (*´∀`*)
11
ウンスはこっそりと、近衛隊が集まる借宿が見える位置に腰を下ろした。
ここは、調度木の隙き間から見る事が出来る位置で、おそらく向こうからは見えていない。運が良ければ、外に出て来たヨンの姿を見る事が出来る。ウンスが見つけた特等席だ。
これまで集めた情報の限りでは、今のところヨンに危険な事があるようには思えない。これらの情報がキ・チョルの手腕で集まったかと思うと少し複雑だが、頼れてしまうのだから仕方が無い。
それに…とウンスはキ・チョルの事を思い出す。
あんなに嫌な奴なのに、自分にはふと素顔を見せているのかと思う時がある。驚いた顔や、このところ見せる笑った顔などは、以前のような計算で作られたものとは少し違うように思えた。
もちろん協力してくれてるからと言って、すぐに信用するほどお人好しではないつもりだが、少なくとも今、彼の言う事に嘘は無いだろう。
そんなことを考えていたが、高麗の兵士達がざわつきはじめたのに気付き、ウンスはそちらに意識を向ける。暫くすると馬車がやってきて、ヨン達がいる宿のすぐ前で止まった。
————なんだろう
どうも兵士達は緊張した面持ちで、ウンスも注意深く見守る。そうして、中から出てきた人にウンスは目を見開いた。
————ああ!あいつ!
そこにいたのは元の断事官だった。
何故!?と驚いている間に、断事官は宿の中へと入っていく。
考えてみても、何故彼がここにやって来たのかさっぱり分からない。キ・チョルに相談してみた方がいいのだろうか。だが、キ・チョルは元と繋がりが深い。断事官がいるのをこれ幸いと、彼に助けを求めるかもしれない。
そこまで考えて、ん?とウンスは考えた後、手をポンと打った。
————むしろ、それでいいじゃない!
キ・チョルの今後については頭が痛い問題だった。このまま元に行くと言うのなら、むしろそちらの方がウンスのお荷物が減るではないか。ブレーンを失ってしまうのは手痛いが、今はそんな事を言っている場合ではない。
ついでに彼が何故、碧瀾渡に来たのかキ・チョルなりの考えを教えてもらえれば儲け物だ。
急いで自分が泊まっている宿に走り、扉を開けると同時に「キ・チョル!」と彼を呼ぶ。
「医仙?どうされました?」
「ちょ、ちょっと…まって」
走って来た事で息が切れる。もう若くないわね…と考えたくもないフレーズが頭をよぎってしまったが、頭から葬り去って息を整える。
「今、チェ・ヨンの所に元の断事官が来ているのよ」
「断事官が?」
「ええ。何故か分かる?それとね、もしあなたが、彼について元に行くというのなら私は止めないから好きにしてねって言おうと思って。協力してくれてすごく助かったけれど、私は今後も高麗にいるから、あなたの命は保証出来ない。私が出来るのは治療だけで、それももう殆ど終わってるわ」
きちんと言わなくてはと思っていた事を伝えたつもりだ。どんなに怪我を治療したとしても、高麗で捕縛されればキ・チョルの命はおそらく無いだろう。それに、自分はこれからヨンを助ける為にどう動くか分からない。いつでも身一つで出て行けるよう、医療用具などの最低限必要な荷物は全て持ち歩いていた。
そこまで説明すると、キ・チョルは「これはこれは…」と驚いた顔をして、少し眉をひそめた後に訝しげにウンスを見た。
「もしや、医仙は私のご心配を?」
「そりゃ、するわよ」
「それならば心配はいりませぬ」
そう言って少し笑うと、すぐに難しい顔になって続けた。
「それにしても断事官とは…」
そう呟いて考え出してしまった。
ウンスが本当に分からないのかという顔をしていたが、キ・チョルにも断事官のことは分からなかったのだ。
ウンスが持って帰って来た情報によれば、碧瀾渡は高麗が元から奪還したばかりだ。どうやら三年の間に、元はずいぶんと勢力を失ったようだ。それならば、今更高麗と取引など不可能な事くらい政治に関する者なら誰でも分かる。
それも王から王への親書ではなく、断事官がヨンの元へ来ているのだ。それはつまり、断事官自身の目的があるように思えてならない。
「医仙、私は元には行きませぬ。まあ、上手くやりますから心配は無用です。医仙はご自分の思うままに動けば良い。だが、断事官は少々気になります。見に行くとしましょうか」
そう言って立ち上がると「案内を」と言ってウンスに先を促した。
*
「元の断事官が?」
「はい。おそらくはこの地の奪還に関する取引ではないかと」
ヨンに伝えた部下はそう言って下がって行った。元の断事官が来るという知らせが届いたのだが、あと少しで到着するというのだから余程急ぎの要件なのか。
だが、なにが目的なのかが分からない。高麗が土地を奪還した事に関して申し立てをした所で、なんの意味もないことが分からないほど愚かではないはずだ。取引などと言っても、あちらに優位になるような取引材料も、その勢力がない事ももう分かっている。
それに、何と言われようとこの地を譲る事など出来ない。
ふっと息を吐いてヨンは目をつぶった。かけがえのない笑顔が鮮やかに蘇る。
————イムジャ…
ウンスが帰ってくるのを待って二年と少し経った。いつでも迎える事が出来るようにと尽力して奪還したこの地を、そう易々と奪われる訳にはいかない。
努めて冷静に対処をしなければと言い聞かせる。あの徳興君を匿った男など許せるはずがないが、ここで自分が手を出せば無駄な争いの火種になる事は理解しているつもりだ。
チュンソクが心配そうにこちらを見ているのが分かって、少し笑ってしまう。この地、いや、ことウンスに関することになると余程自分は信用されていないらしい。
「心配せずとも、なにも殺しはせぬ」
「い、いえ!心配など!」
「しておったろう。だが分かっているから安心しろ」
「…断事官は何の用でしょうか」
「分からぬ。だが、会わぬ訳にもいくまい」
そこへ断事官が着いたという知らせが届き、ゆっくりとその男は部屋に入ってきた。
断事官は以前と変わず落ち着いた態度で、ヨンの目をひたと見据えた。
続
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