2015シーズンまとめ・その3です。
その1 はシーズン前の出来事、その2 は和田監督体制時のことを中心に書いてきました。
今回は石丸清隆監督に代わってからのことを書いていきます。



2列目からのプレスを起点に後方の守備を整備


7月10日に和田昌裕監督が解任され、石丸コーチが監督を務めることになりました。
第23節・長崎戦 までに練習期間はわずか2日のみでしたが、時間のない中で守備の整備に取り掛かっていきました。
さすがに時間的にも多くを仕込むことはできず、敗戦にもなってしまいましたが、前線からの守備を積極的に行うことによって、主導権を握る時間も多い試合でした。

1週間の期間を置いて迎えた第24節・C大阪戦 ではよりアグレッシブな姿勢を貫き、開始早々の先制点に勇気を得たこともあって完封勝利。
2列目からの守備がハマっているときは和田監督体制下でも勝利に繋げられていましたが、この良いポイントを改めてしっかりと意識づけたことが最大の要因でしょう。

さらにこれに加えて、前線で奪えなかった時にしっかりと後方でコンパクトにブロックを形成し、やや粗いながらも当たりに行くところとカバーリングに行く分担を整理でき始めてもいました。
うまく守れ始めると選手の意識も良くなってきますし、体を張った集中した守備が持続できた非常に良いゲームでしたね。


ただ、ベースはしっかり前から走ることで、夏の連戦期間に突入したところでもあり、拙いところを運動量で賄うスタイルには限界もありました。
実際、中3日で続いた福岡戦東京V戦 に連敗。
福岡戦こそ押し気味に進めていましたが、東京V戦は前半からガス欠感が強い試合で、この連戦を全く同じスタメンで臨んだ石丸監督の判断には疑問が残ります。

良い試合を見せたC大阪戦のメンバーで流れを持続したかったのか、どれくらい走れるかを見たかったところもあるでしょうし、裏を返せば他のメンバーだと依然不安が残っていることの現れだったかもしれません。
それにしても連戦下にしては無理な追い方も見られていて、指揮官の判断だけでなく、選手の状況判断も課題だったでしょうか。

この連敗で今季最低の21位まで順位を下げることになり、チームとしての余裕がなくなっていきかねない状況でした。


しかし、この状況でもブレが生じることはなかったのは和田体制時との大きな違いでしょうか。
酷暑の中で、前から激しく行くことはやや抑えめにしましたが、コンパクトな守備ブロック形成は怠らずに次節、札幌に勝利 。その後、磐田相手 に3度追いついてのドローゲームを演じた後、大分に勝利 しました。

悪条件下でもしっかりと守れるようになってきたことによって、磐田戦に象徴されるようにメンタル面でもタフになってきた兆候はあったようにも思います。
第31節・千葉戦 もそんな粘り強い、いい試合でしたね。

短い時間でしたが、守備をそれなりのレベルまで高められた点で石丸監督の手腕は確かと言えるでしょうか。
もちろんコーチとしてチームを見ていたこともありますが、良い立て直しでした。



攻撃の形と選手層の厚み作りはあまり進まず


守備の整備がそれなりに形になってくると、続いては攻撃面のテコ入れが必要になってきます。
監督交代直後は、両サイドを起点にショートカウンターを仕掛ける形を武器としていて、サイドの守備が甘い相手に対してはかなり有効に作用していました。
C大阪戦や千葉戦なんかはそうでしたね。

ただ、試合を重ねるにつれ、対戦相手も京都の長所を潰しにかかってきました。
後方のスペースを消され、ロングボールをDFラインの裏に蹴り込まれることによって、DFラインを下げさせられるとともに、攻撃の開始位置を後ろにさせられます。
我慢してラインを高く保とうとしていましたが、時間を追うごとに慎重になり過ぎる傾向にあったでしょうか。
それによって、攻撃がやや詰まり気味になり、勝ち切れない試合が多くなっていきました。


石丸監督は対応として、第35節・群馬戦 から4-1-4-1システムを採用。
守備時はそれまでと同じように前線から相手のパスコースを限定し、ラインを高く設定してできるだけ前で奪い取れるように。
攻撃時には2列目がある程度流動的に、外から中へ動きつつ、両サイドバックを高く上げていく狙いがありました。

実のところ目新しいものではなく、開幕直後にやっていた形に似ています。
元々攻撃面を石丸コーチ(当時)が見ているという話もありましたし、守備面を整備した後に、やりたかったことに立ち返った形なのかもしれません。


改めて導入した意図としては幾つかあったと思うのですけど、ざっと挙げるなら、

・中盤を厚くしてポゼッションを高め、高い位置にボールを運ぶ。
・アンカーを置いて守備を意識させ、インサイドハーフの原川力や山瀬功治を前に出やすくする。
・右サイドで守備をサボり気味な伊藤優汰のフォローにインサイドハーフやFWが入りやすくなり、守備をハッキリさせる。

といったあたりでしょうか。


一方でデメリットとして、前がかりになりやすいということと、中央に密集する意識が高くなり過ぎたところはありました。
サイドを有効に使えず、結局攻撃に詰まることも多かったですね。

特に左サイドバックには、本職ではない上に右利きの磐瀬剛や下畠翔吾が起用されていたため、幅を取ったり、スムーズに縦パスを入れられなかったり。攻め上がってもクロスの精度も低いということで、余計に中央から右への偏りは出てしまったでしょうか。
言い換えれば、サイドの幅を意識したプレーができると良い攻撃を繰り出せていました。
第37節の横浜C戦 もそうでしたし、宮吉拓実を左ワイドに置いて、下畠との連携から良い崩しを見せた第38節・大宮戦 もそうですね。

ただし、ラインを下げさせられてしまうとボールを前に運ぶのに苦労することはあまり解決されませんでした。
伊藤と駒井善成のドリブル突破頼みになることも多く、無謀な仕掛けから奪われてまた押し込まれることもしばしば。
和田監督体制時に奥川雅也を起用していた時も同じ現象はありましたし、年間を通じて苦労した部分と言えるでしょうか。


また守備の面では、アンカーを当初任されていた田森大己が負傷を抱えており、90分間プレーできないということも懸念としてありました。
さらに、右サイドをケアするためにワントップにも多大な守備時の運動量が求められ、よく起用されていた有田光希でさえ、90分間持たないことが多く、アンカーと合わせて選手交代の2枚がほぼ決まってしまうことに。

これにより、選手交代の幅はかなり限られていましたね。

大黒将志を入れて点を取りに行くか、新加入のフェホを入れて高さのアドバンテージを狙いに行くか。
守り切るための策はあまり見られませんでしたし、選手起用の面でしんどい部分は正直ありました。
アンカーに関しては終盤戦ではキム・ナミルがなんとかフル出場できるようになり、田森を終盤に投入する形を取れるようにはなりましたが、それ以外は攻守において『有効な選手層』の薄さを感じることに。
天皇杯を中心にいろんな選手を起用して、幅を持たせようとしていたところはありましたが、立命館大戦 でPKにまで持ち込まれるなど、あまり上手く行かなかったことが残念でもありましたね。
元々の選手層の話にも繋がりますが・・・。

苦しさは結果にも現れ、9試合連続ドローを記録するなど、なかなか勝ちに繋がらなかったですが、第39節・北九州戦 からのラスト4試合で3勝を挙げ、なんとかJ2残留を決めました。



大黒将志との「対立」と問われる指揮官の覚悟


石丸監督に替わって、目に見えた結果は出ないものの、一定の成果は上げられました。
しかし、チーム内で不穏な空気はあったようですね。
特に最終戦後に様々な形で不満を露わにしていた大黒将志との関係はその最たるものでしょう。
今回の最後にこの話にも触れようかと思います。


石丸監督就任後、大黒は途中出場が多くなり、スタメン出場は20試合中5試合のみ。
それでも6ゴールを挙げており、スタメンで使われることの多かった有田や宮吉(ともに3ゴール)よりも多くの得点を挙げています。

もちろんFWとしての役割はそれだけではなく、守備面での貢献を考えるとFWのファーストチョイスが有田や宮吉になっていたのはチーム状況から言っても致し方なかったと思います。
また、大黒も得点感覚は保っているものの、スピードやスタミナ面の不安を考えるとスーパーサブとして得点の欲しい時に出てくる形が良さそうでもありました。
特にシーズン終盤の4-1-4-1システムにおいては、本来なら1トップの守備面での負担はそう重いものではないはずで、リーグ屈指のストライカーたる大黒を活かすにも面白い試みだったはずです。

大黒自身もそう考えていたかもしれませんが、実際には大黒を1トップに置いた形は機能せず。
上記しましたが、攻撃に詰まりやすい中ではドリブラーの伊藤と駒井を外しにくく、守備の怪しい伊藤を考えると、大黒と並び立たせるとボールを奪いづらくなってしまう傾向。
さらに、押し込まれる分、後方からのロングボールをまず当てることになるのですが、大黒にその役割を求めるのは酷でもあり。
途中出場したとしても、周囲は消耗しているために、味方の押し上げも少なく、なかなかパスが出ないイライラを露骨に出すこともありました。


しかし、大黒自身にももちろん問題があり。
イライラしていたためでしょうけれど、消耗した周囲がなんとか押し上げてカウンターのチャンスを創った際に、遠目から無謀なシュート(とりあえず撃っておきたい、という狙い)を放ってチャンスを潰すことも多かったのが代表例でしょうか。
また、一発でDFの裏を取りたい気持ちが強すぎるため、パスコースに顔を出さずに逆サイド側へ流れがちなことも気になるシーンでした。
特に1トップでの起用時には、サイドを持ち上がって来る味方に対して顔を出さないと、ボールを持っている選手の前方には人がいなくなってしまうために潰されやすくなりますし。
結局、攻撃が詰まることになり、大黒にもボールが出ない負の連鎖。

もちろん、パサー不足の問題もチームとして抱えていましたが、そればかりを言っても仕方がないところでもあり。
結局のところ、石丸監督とコミュニケーションが上手く取れていたのかどうか、ということに帰着します。


メディアを使って揺さぶりをかける形はあまり好きではないですが、チームの中でやりたいプレーを主張することは悪いことではありません。
しかし当たり前ながらチーム内の規律や、周囲との関係性があってしかるべき。
それを欠いてしまった振る舞いは正直なところ残念です。


一方で、戦術面で大黒を活かし、大黒の得点を増やすことも十分にできたはずで、それを方法論として徹底できなかった石丸監督にも不満が残るところです。
個性の強い選手はサッカー選手には多いですし、特に選手時代の実績を考えれば、例えば大黒と石丸監督ではキャリアに大きな違いがあります。
そういった中でもチームを率いる以上、論理的かつ厳格にやっていく必要があるのが監督の仕事。
それこそ、完全に「干す」という選択肢もありながら、それをできなかったとも言えるわけですし。

結果が出始めてから、まだ残留が決まっていないにも関わらずチームがやや緩んだところもあり、規律を徹底できなかったというのは今季の大きな反省でしょうか。

また、今後の石丸さんの「監督としての成長」にはそういった要素も出てくるのかもしれません。
率いるチームの規模が大きくなればなるほど、こういったケースも大きくなりますからね。

目に見える結果を出して自らの論理を納得させるか、もしくは、自らを信じさせて結果に繋げるか。

鶏か卵か、みたいですが、今季の『失敗』をどう生かしていくでしょうか。
大黒の契約もどうなりますかね。



と言うことで、次回が最終回、のはずです・・・(笑)