「繰り返される虚構こそが、受け入れられる真実となる」

ウラジーミル・レーニン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦後の「国体」としての永続敗戦

 

 

アメリカの影

 

 

敗戦の意味を忘却可能とした永続敗戦の構造は

戦後処理・占領改革・戦争犯罪者の処罰

 

 

日米安保体制の確立・経済復興の促進

沖縄の軍事要塞化といった米国の対日政策に大きく関与している。

 

 

戦後日本にとって米国は「特別な他者」

その「アメリカ的なるもの」の影響は、意識できないほど大きい。

 

 

 

「反米か親米か」という罠

 

 

国家は本性上、悪を含んでいるため、

米国が自国の国益を第一に追及、帝国主義的であることを

 

 

道徳的に批判しても、無意味

同じように、反米感情が素朴であれば、意味を持たず、人畜無害

 

 

日本社会が反米の傾向を、情緒的に持つ限り

日本社会の内在的な病巣を、直視しないための口実になる。

 

 

占領軍の対日政策の主な論点は三つ

東京裁判、平和憲法、天皇制

 

 

右派は、東京裁判は「勝者の裁き」で不当、平和憲法は押しつけ

天皇制の存続は、昭和天皇の「無私の精神」の感激により、当然

 

 

左派は、東京裁判は不徹底、平和憲法は先駆的に体現しており護持

天皇の責任追及の放棄は、民主化改革の不完全さの端緒

 

 

国家は本質的に決して道徳的ではあり得ない、事実により

占領政策を道徳的に評価すると、根本的な事実を見落とす。

 

 

江藤淳は、占領軍の検閲の問題の非難の矛先を、米国ではなく

検閲システムに無自覚な「戦後民主主義」を支持した者たちに向けた。

 

 

国家は悪を内包し、他国や他国民を手段化するため

検閲で統制された戦後民主主義が、思想的基盤足り得ない。

 

 

この江藤の批判を敷衍すると、米国の国益追及と国内事情によるものなので

戦後対日政策を、道徳的見地から論じることは、無意味

 

 

 

昭和天皇の戦争責任の問題は、天皇の地位を利用することで

対日占領政策が行いやすいため、決定されただけ

 

 

保守・右派にとって、平和愛好者だった昭和天皇という物語から

道義的に「善い」ものと判断され

 

 

革新・左派にとり、天皇を間接統治の便利な道具として

利用した米国は、道義的に「悪い」ものと評価される。

 

 

占領軍の「天皇への敬愛」が単なる打算と

理解できないのが、戦後日本の保守

 

 

理解しているが、「米国の打算」が

国家の当然の行為だと理解していないのが、戦後日本の左派

 

 

憲法九条に関しては反転して

親米右派は毛嫌いし、反米左派はこの米国製を愛してやまない。

 

 

護憲左派の「世界の冠たる平和憲法」は

「原子力的な日光の中でひなたぼっこ」という

 

 

強烈な脅し文句とともに突きつけられた、事実がある。

純真な理想主義が盛り込まれたことは確かだが

 

 

日本が二度と歯向かわないという米国のむき出しの国益追及と

周辺諸国の日本への恐怖と嫌悪を柔らげる政治的意図で、現実化された。

 

 

護憲左派は、この政治的意図を差し引かず

平和憲法を美化、「一国平和主義」を事実上肯定

 

 

改憲右派は、「一国平和主義」と揶揄される以上の何かを

真剣に検討もしてこなかったし、することもできない。

 

 

左派は、新憲法に対し米国のとった政策に

戦後日本の道義の根本を見出し、右派は退廃を見出すが

 

 

そのどちらも、欺瞞を抱え込まざるを得ない。

根本的に空しいが、棚上げとしてよく機能してきた。

 

 

「親米か反米か」は偽の問いであり

問題は、永続敗戦の構造を作り上げた日本社会の内部に存在する。

 

 

 

従属構造の現況

 

 

日本の政治的・経済的・軍事的な対米従属は

われわれの国家・社会の側にあることを徹底的に自覚すべし

 

 

現在の日米関係において表面化している

懸念要素は、大別して二つ

 

 

TPP問題に代表される経済戦争の新形態

1970年代以降、衰退しはじめた米国経済は

 

 

新自由主義の導入と金融バブル経済化

旧共産圏市場からの搾取によって、延命を図ってきた。

 

 

しかし利潤率の低下、経済成長の鈍化を

食い止めることができなかった。

 

 

如実に表したのが、リーマン・ショック

米国のTPP戦略は、この窮状からの脱出の一つ

 

 

保健・医療・金融・農業といった諸分野における

米国に有利なルール設定と日本市場の獲得が、TPPに内包している恐れがある。

 

 

低成長の新自由主義体制の中では

物理的暴力も含んだパイの奪い合いが起きる。

 

 

「身内」から奪う行為も含まれ、冷戦崩壊以降

日本は、米国にとって無条件的な同盟者ではない。

 

 

 

日本自動車工業会は、TPP参加を声高に賛同したが

「日本の軽自動車規格は、参入障壁であるから廃止せよ」

 

 

「われわれが上手くつくれないものは

その規格が間違っている」という理屈を提出された。

 

 

TPPの本質は、何か

「TPPは自由貿易を推進、経済のブロック化が戦争を招いた」

 

 

こうした推進勢力のスローガンは、無知か不誠実で

ほとんどの製品の関税は、ゼロかゼロに近く、すでに実現されている。

 

 

TPPの標的は、「非関税障壁」で関税ではない。

多くの場合「障壁」は、合理的な動機と市場独占への欲求という

 

 

動機に支えられ、かつ機能しており

経済学上の不合理の排除は、合理的な「障壁」も排除する。

 

 

「障壁」を不合理として全面的に排除することで

一元的な「グローバル・ルール」を設定、強制しようとしている。

 

 

現代の「自由貿易」は、最も有利な「ゲーム・ルール」を設定することで

市場の独占を目指すもの、金融機関のBIS規制の導入に見て取れる。

 

 

典型的な事例は、遺伝子組み換え作物の問題

枯葉剤を開発したモンサントは、「種子の独占」を謀っている。

 

 

自社の遺伝子組み換え種子に、知的所有権を掛け

農民が自家採取した種子の使用を禁じた。

 

 

「ターミネーター種子」は種子が発芽しないように改造された種子であり

農家が、モンサントから毎年種子を買い続けないといけない。

 

 

経団連がTPPを推進するのは、会長が住友化学であり

モンサントのパートナー企業という陰謀論は

 

 

福島原発事故を経験したので

「まさか」はもはやあり得ない。

 

 

軽自動車の廃止であれ、遺伝子組み換え種子の導入であれ

米国が国益追及として、押しつけるのは、当然

 

 

問題は、進んで受け入れ、積極的に手引きしようとする低劣な人びとがいて

彼らが、指導的地位を占めていること

 

 

 

もうひとつの懸念要素は、安全保障問題

尖閣諸島で日中軍事衝突が起きれば、米国はどうするのか。

 

 

尖閣諸島の帰属について「中立」の米国は

「誰のものかわからない」ものを借りている。

 

 

オフショア・バランシング

「単純化して言えば、海の向こうにAという強大な勢力が出てくる場合

 

 

同じ海の向こうにBという別の勢力を要して支援を与え

AとBとの間で緊張関係を高めさせ

 

 

自らは、海のこちら側で安全を確保する戦略である」

豊下楢彦(ならひこ) 『「尖閣問題」とは何か』(P64)

 

 

米国にとって、中国の台頭を単独で抑制は困難

日中が接近・協同して、米国に挑戦することは最悪の構図

 

 

日中・日韓・日露間が、親密にならぬよう火種を残しておくことは

重要な戦略であり、軍産複合体の利益にも叶う。

 

 

国境なき経済化により、経済関係の緊迫化は避けられず

紛争の種は簡単に増大するため、「嫌いな相手との付き合いを避ける」は不可能

 

 

米国の戦略の帰結は、冷戦時と比べて

はるかに危険なものとなっている。

 

 

外交・安全保障面で「日米同盟の強化」の呪文を唱え続け

対米従属主義を喜ぶ勢力が、日本の権力を独占していることが問題

 

 

豊下楢彦

「日本外交の達成目標を何であると認識していたか」

 

 

中島敏次郎・元外交官

「やはり日米関係のゆるぎない紐帯だと思っております」

 

 

外交目標があり、日米基軸は手段なのだが

手段と目的を取り違え、手段の自己目的化をしている。

 

 

「だからこそ、日本外交の目標を問われて「日米基軸」としか

答えられないことが”異様”であるという認識それ自体が失われてしまい

 

 

ただひたすら日米関係を損なわないように行動することが

日米外交最大の課題として位置づけられてきた」

 

豊下楢彦(ならひこ) 『「尖閣問題」とは何か』(P251)

 

 

 

第二次安倍内閣、内閣官房参与、元外務事務次官の谷内正太郎は

米日の関係を、「騎士と馬」に擬えた。

 

 

これが意味するところは、家畜化され白人信仰を植え付けられた日本人は

生ける便器へと肉体改造されているということ

 

 

(表現が汚いので割愛)

 

 

「アメリカを背中に乗せて走る馬になりたい」と考える人びとの

自己盲目化は、実際には利点がある。

 

 

永続敗戦の構造を維持でき、それによって政官財学メディアは

利権の構造の維持と恩恵に浴することができる。

 

 

この利権の構造は、旧軍指導者たちの「ただ成り行きでそうなった」

と同じように、張本人たちは「ただ何となく続いている」という。

 

 

認識すべきことは、利権構造や人的系譜だけではなく

もっとおぞましく根の深い「何か」だ。

 

 

 

 

経済戦争と安全保障が日本にとって、重要な懸念要素らしい。

TPPに対する知見の浅薄さ、経済学に対する無知

 

 

対米従属は嫌だが、絶対的護憲

中国共産党への極度の恐怖症

 

 

米国に対する無知、知らぬがゆえの大言壮語、断言

米国の国益追及とする一元的な見方は、けっこう笑う。

 

 

でも対米従属主義者を、生ける便器などと

汚い表現で罵倒するのは、分かる気がするが

 

 

かつて自分たちがそうだったことは

なかったことになっているようだ。

 

 

昔、おそらく古き良きマルクス・レーニン主義があったのだろう。

理想に燃え、共産ゲリラ、武力闘争、革命、歴史の改竄

 

 

しかし、これらが現代で多くの人びとを魅了し

武力闘争に駆り立てさせることは、非常に難しい。

 

 

暴力を肯定する一方で、暴力を否定する作業は

魔術的な曲芸で、仲間内でしか通用しない論理しか構成できない。

 

 

身内意識を強固にはしてくれるだろうが

ほとんどの人びとが納得せざるを得ない原理の提出は、まず不可能だろう。

 

 

 

 

 

 

永続敗戦論―戦後日本の核心(atプラス叢書) [単行本]

 

 

 

「尖閣問題」とは何か