私は伊豆大島で一番小さな村、泉津という村の出身です。
この村では、昔から1月24日に「日忌様(ひいみさま)」という日があり、
ちょっと変わった過ごし方をします。

まず日忌様とはどんな日なのか、私が子供の頃聞いたおはなしを書いておきます。


むかしむかし、伊豆諸島にはとても悪いお代官さまがいて、
島民はみんな苦しめられていました。

伊豆大島の泉津に住む若者25人は、島々を守るために知恵を絞り、
悪代官が伊豆諸島の各島を船で巡る日を、わざわざ大シケになる日を選び、
波に飲ませ殺してしまいました。

若者たちは罪人になるので、島外へ逃亡するため、
泉津の村にある波治加麻(はじかま)さまという神社の大きな木を切り倒し、
繰り抜いて船を作り、海へ出ました。

日忌様イメージ←絵が下手なのはすいません

しかし、代官を殺したと聞いた隣の島も、また隣の島も、その若者たちを匿うことを嫌がり追い返してしまいます。

行く場所を失った若者たちは、そのまま海の何処かで死んでしまいました。

そこで毎年1月24日になると、島々の人に恨みを持った25人の若者たちが、丸太船に乗って、泉津に帰ってくるのです。


村の人達は毎年、島のために戦ってくれた若者を「日忌様」と呼び、お迎えするために、
1/24当日は決して海を見ず、なるべく外出を控え(特に日没後は絶対に出ない)、子どもたちを早く寝かせ、家畜は山に放し、大きな音を立てず早めに眠るという風にして過ごします。
唯一「門井」という家の主だけが海へ出向き、一晩海で見張りをしてたけど、今はもうないはずです。

日忌様の準備としては、
神棚には25個のお団子を備えて、
扉や窓にはトノベラ(こっちではトベラって言うみたい)という、つるつるで丸くて長い葉と、ノビルというネギを小さくしたような、臭いのする草を結きます。
※臭いがしたり、磨かれたようにつるつるした葉っぱは魔除けの意味があるって言ってた気がする。

そして自宅の勝手口に、海で拾った丸い小石を25個並べて道を作り、海水をかけて清めておきます。
玄関でなく勝手口にこのような準備をする理由は、勝手口を玄関だと日忌様に錯覚させ、自分たちが出入りする可能性のある玄関を守るためだと、当時大人から聞きました。

日忌様の準備←絵が下手なのはすいません

準備は家々によって微妙に違うみたいですが、私は子供の頃こんな感じで近所の家に遊びに行って準備した記憶があります。
白玉でお団子作ったり、ノビルを摘んだり、石を並べたり…
そして24日はとにかく日忌様がくると思って、海を見ず(島暮らしだとこれが意外と大変)、騒がず、早く布団に入り、なかなか寝付けず怯えてたなと。

その風習を軽んじると、日忌様に連れて行かれて死ぬと聞いていたんです。(実際に、軽んじて変死した人がいるとかいないとか…)

だから今でもこの日は海を見ず、なるべく早く家に帰るように心がけてしまいます。

また、大昔はよその村の人を絶対に村に入れず、村の入口で何人かに番をさせ、よその村の人間が来たらタコ殴りにしていたそうです(笑)
そのうち「郵便屋さんだけはいいか」と、村の会議で決まったらしく、郵便屋さんだけは村に入れるようになったとか。
でも家に郵便屋さんがくると、懲らしめましたという証拠に、叩くまね事だけはしていたようです。
今は誰でも村に入れますけど、ひいみさまを軽んじて泉津のご家庭を訪問するのは控えたほうがいいと思います…。。

この話はその後、日本中に「海難法師」というおはなしに変化し伝わっているようです。

とにもかくにも、島を想い戦った熱き25人の若者に感謝して、静かに村におかえりなさいをする日。
とても大切な日です。



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