act.4 そして、彼女の事情 3 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

 走って走って、追いつかれないように走って。
 気づくと、いつの間にか駅に着いていた。
 真由子は息を切らしながら、駅前の広場のベンチにゆっくりと腰を下ろす。
 夕方のこの時間は、やはり学生が多い。広場を通って駅へ向かう人の中に、楽器を持って広場で演奏を始めるストリートミュージシャンが混じり始めた。
 いつもは気にも留めないのに、今日は何だか目につく。
 あんなに一生懸命歌っているのに、立ち止まって聴く人は少なく、無視されていく。それなのに、あのストリートミュージシャンたちはそんなことお構いなしに歌い続けている。
 どうして歌い続けられるのだろう? 歌が好きだから?
 だけど……好きだけじゃダメだってことは、痛いほどよく分かる。
 こんなに好きなのに、どうして彼は自分を見てくれないんだろう?
 話しかけて、返事をしてくれても、目線はいつもあの女に向いてて、こっちを見てくれない。
 あんな女のどこがいいのか、さっぱり分からない。
 根暗でいつも下ばかり向いてて、かわいくもなくどちらかと言えば地味で。
「ハァ……」
 どんなに思っていても伝わらない。
 あいつをイジメれば、気が晴れると思った。あいつが学校に来なくなれば、彼はこっちを見てくれると思った。
 だけど誤算があった。イジメても気分は晴れない。どれだけイジメても、あいつは学校を休まなかった。
 高校に進学すれば、もうあいつに会わなくて済むと思った。彼が行く高校をリサーチして受けた。
 ここでも誤算があった。その高校には、あいつもいたのだ。それを知ったとき、愕然とした。
 そして気づいた。彼はあいつを追って来たのだと。それが分かった瞬間、ただ悔しくて、悲しくて。
 こんなに思ってるのに、どうして伝わらないんだろう?


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