act.4 そして、彼女の事情 8 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

「あたしね……中学の時、あいつのことイジメてたの」
「え?」
 思わぬ告白に驚きを隠せない。
「あいつって……木元さんだよね?」
 確認するように問うと、真由子は頷いた。視線を下に向けたまま、続ける。
「あいつ、中学の時から暗くて、いつも下ばっかり向いてて、地味で目立たなくて……。そんな奴に負けたなんて、何か悔しくて。あいつをイジメれば、気が晴れると思った。学校に来なくなれば、高村はあたしを見てくれると思った。だけど……気分は晴れないし、あいつは学校を休まなかった」
 真由子の気持ちがようやく分かった。真由子はどうにもならない感情を優子をイジメることで、解消させたかったのかもしれない。
「本当は、分かってたの。こんなことしても何もならないって。高校に行けば離れ離れになるから、今度こそ高村はあたしを見てくれると思った。だから高村が受ける高校を調べてあたしも受けたの。でも入学式の日、あいつを見つけてびっくりした。それで分かったの。高村はあいつを追いかけて来たんだって」
 その言葉はあまりにも確信がこもっていたので、違和感があった。
「どうして追いかけて来たって分かるの?」
「だって、高村の実力ならもっと上の高校に行けたはずだもの。この高校もレベルは低くないけど……」
 確かに健太は頭がいい。成績もトップだということは周知の事実だ。
「それを知ったとき、確かに悔しかったけど、もうあいつに手を出すのは止めようって思った。あいつをイジメたって、現状は変わんないもんね」
 その言葉を聞いて、少なからず由美は安心した。今はイジメをしていないということだ。
「だけど由美があいつと友達になりたいって言った時、ショックだった。あいつは……あたしの友達まで奪っていくのかと思うと、怖くなったの」
「だからあんなに嫌がってたんだ」
 数日前のやり取りを由美は思い出した。真由子の気持ちが分かった今なら、あの拒否反応も理解できる。



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