私の父が亡くなった時、娘に不思議なことが起きた。
私は家内との結婚の時に、父から勘当され親子の縁を切られている。
反対の理由は、家内がフィリピン人である事。
一族に外人の血を入れる事に対する反対だった。
わたしは「それは人種差別だ!」と反論し、間違った理由は承服しないと、自分の意志を貫き、父はそれなら縁を切るしかないと、勘当に至る。
まあ、勘当と言っても、これが二回目なので、今更と言う感もある。
結婚後、父とは連絡を取っていなかった。
お互いの事を知るのは、母を通じて聞かされる話しかない。
その父が癌で倒れた。
余命半年だった。
父が頑固一徹、自分で行った事は絶対に曲げない。
そんな父の性格を知っているので、私は見舞いには行かなかった。
恐らく見舞いに行っても、相手にしないだろうし、見舞いに来ることは望んでいなかったと思う。
しかし、嫌われていた訳でもないと思うし、口には決して出さないが、心の中ではエールを送っていたとも思う。
恐らく、自分で選んだ道なら貫き通せと思っていたと思う。
父はそんな人だ。
娘が生まれた時、母には娘の写真を渡していた。
母は頑なに孫に会おうとしない父の前に、「これが孫の写真だよ」と娘の写真を父の前に置くと、父は「そんなの見たくない」と横を向いたと言う。
しかし置いたままその場を去ると、まんざらでもない顔で写真を「チラ見」していたと言う。
父がいよいよ危ないと感じた母は、強引に会わせる計画を立て、病院に娘を連れて行く事になった。
当時娘は幼稚園だった。
孫が来ると聞かされた父は、すかさず寝たふりを始めた。
まあ、それも折込済み。
拒否る父に、予め孫が来ると伝えたのは、父のプライドも考えての事だったのだろう。
私が娘を病室に連れて行くと、父は口を真一文字にして寝ている。
いや、寝たふりをしている。
それは家族にはバレバレ。
本当に寝ている時は、口を開けてもっとだらしない顔で寝ているのが、口を真一文字に閉じ、眉間にしわまで寄せている。
私は娘に予め台詞を覚えさせていた。
「おじいちゃん、早く元気になって私と遊んでね。」
この台詞もバッチリ言えた。
とりあえず、生の声は聞かせた。
それから1週間ほどで父は他界した。
その通夜の時の事である。
通夜が終わると突然娘が高熱を出してしまった。
仕方がないので家内と娘を帰らせる事にした。
翌日になっても熱は下がらず、家内と娘は葬儀を欠席する事にした。
葬儀も終り、火葬場で焼き上がるのを待っていると、娘から電話が来た。
「今ね、おじいちゃんが来てね、遊んでやれなくてごめんね、って言って帰っていったの」
え? おじいちゃん? おじいちゃんがそこに行ったの?
帰ったって、何処に?
すると娘は「わかんない」。
とりあえずそこで電話を切った。
話を聞いていた親族は「どうしたの」と聞いてきた。
そこで娘が話して事を話した。
すると親族は驚いていた。
父の亡骸が燃えるのに、通常よりかなり時間が掛かった。
後から来た人がすでに帰っているのに、何時まで経っても焼きあがらない。
今考えると、娘に会いに行っていたから時間が掛かったのかもしれない。
しかしまあ、親父も見事な作戦できたもんだ。
娘に熱を出させれば、帰らざるを得ない。
しかも一人では帰れないので、母親が一緒に帰ることになる。
すると、反対していた結婚相手を葬儀に主席させなくするのと同時に、他の人が見て無い所で娘に会える。
死して意思を尚貫き通すとは、我父ながら見事なまでに天晴れ。
私も負けてられない。
私がそっちに行った時、絶対間違いを認めさせてやる。