多核胚はどう扱うか | 両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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多核胚ができて不安です。異常率が高いと聞いたことがあり、今後移植するのは避けた方が良いのでしょうか?

このようなご質問がありましたのでお答えします。

普通は一つの割球に一つの核ですが、多核とは一つの割球に核が二つ以上見えることを言います。
(割球とは分割胚のなかの一つの細胞を指します)
多核の存在する割球を含む多核胚は、染色体異常の頻度が高く妊娠率が低いため、移植から除外されているケースがあります。

多核胚は妊娠率が下がることは過去の論文でも多数出ておりこの点は間違いありません。
ただその割合は2〜3割程度の低下であり、移植を避けた方が良いということは過剰の反応です。

複数ある細胞の中の一つが異常だとしても、胚には自己修復機能があり、しっかりと機能する事で正常な胚になれるため、多核は胚盤胞になれば移植する方針で問題ありません。

細胞周期の中で(細胞分裂の際に)必ずチェックポイントというのがあります。新しい細胞ができるとき、もし分裂の過程で異常が出てもチェックポイントでその異常を修復して周期がそのまま次の過程に進んだ場合に起こるだろう惨事を防いでいます。

例えるならば、我々が病気になるのと同じで、軽度であれば自力で治す事ができます。(ただ病気の程度が大きい場合や胚にその力が無い場合には発生を停止します。)

まとめると、多核胚=染色体異常胚ではないため、発生を見ながら移植をする事は可能と考えて良いかと思います。