【幻想物語 第7章 第14話】 | 毎日きびきび

毎日きびきび

遂に大学生。
気を引き締めていきたいですね。

これまで出会えた全ての人に感謝を。
これから出会っていくであろう全ての人に感謝を。

あと3話!!


これを含めたあと3話で、対アポロン戦が終了します!!



さぁ、『終焉』を受けたライナは、どうなってしまったのか。




幻想物語


第7章 第14



-終焉-





・・・。




・・・・・・。



ここは・・・。



ここは・・・どこだ・・・?




何も・・・見えねぇ・・・。



何も・・・聞こえねぇ・・・。



何も・・・感じねぇ・・・。



アポロンは・・・。


奴は・・・どこだ・・・?



真っ暗で、何も見えねぇ・・・。


アポロンは・・・?

アイツは・・・どこだ・・・?


「おいライナ」


ケルベロス・・・?



「ケルベロスか?」

反射的に、その名を呼んでいた。

しばらくの沈黙があって、ケルベロスがそれに答えた。


「何が起きたか、分かってんのか?」


「・・・・・・」

ダメだ、何も答えられない。

当然だ。何も分からないんだから。



「その様子だと、分かってねぇみたいだな」

まるでどこからか見ているような口調で、ケルベロスは俺を憐れんだ。


うるせぇよ、バカ野郎。



「あァ・・・」

ふてくされた声で、短く呟いた。



「なら説明してやるよ、お前が喰らった『大魔法』を。」


「・・・大魔法?」


聞いたことがない名だ。


「あぁそうだ。お前たち人間が使う、俗に言う『ランク10』の魔法、あれより上の威力を誇る魔法を、俺達は総称して『大魔法』と呼んでいる。威力、破壊力、大きさ、全てが通常の魔法を上回る。お前が喰らった『終焉(エンド・オブ・ワールド)』は、最強の大魔法だ」



「珍しいな。お前が『最強』なんて口にするの」

「事実だから仕方ねェだろーが」


やや怒った口調で、ケルベロスは鼻を鳴らした。


「それって・・・どういう・・・」


意味だよ、そう訊ねようとしたが、ケルベロスは我慢できなかったのか、俺のセリフに被せる形で口を開いた。



「大魔法、『終焉(エンド・オブ・ワールド)』。その効力は術者が死すまで続き、内部からの破壊、外部からの干渉はほぼ不可能。球形に作られてはいるが、内部は空間情報がグッチャグチャに掻き回されてるから、どこまでいっても脱出はできない・・・」


諦めが混じった、小さな溜め息が、黒い空間にこだました。



「だから・・・何なんだよ・・・!?」

正直、全くといっていいほど、意味が分からない。


そんなけったいな魔法喰らったのに、俺は死んでねぇし、この通りピンピンしてる。

こんなのが、『最強の大魔法』だなんて思いたくもねぇ。


「この魔法の恐ろしいトコロはな、対象となった者から全てを奪うトコだ」


「全て・・・?」

そこだけを、オウム返しに訊ねる。


「あぁ、そうだ。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、痛覚、平衡感覚、魔力知覚、その他全ての感覚を奪う、それが『終焉(エンド・オブ・ワールド)』の能力だ」


その事実に、俺は息を呑んだ。



全て・・・?


見えない、聞こえない、暗黒の世界・・・?



思考がそこに至った瞬間、何故か俺の中に小さな感情が芽生えた。


意識的に気付きはしなかったが、それは既に、行動となって表れている。



全身が震え、息が荒くなる。



歯の根が、寒いわけでもないのにガチガチと音を立てている。




「恐怖、か・・・。当然だな・・・



「うる・・・せぇ・・・!!」



こんなの、恐怖でもなんでもねぇ!!

落ち着け、落ち着け、落ち着け!!!




バン!!



両掌で、頬を思い切り叩いた。

だが、痛みが上ってこない。


・・・ちくしょう、これが『終焉(エンド・オブ・ワールド)』の効力ってヤツかよ・・・。




「ケルベロス・・・一つ答えろ・・・。お前は言ったよな?聴覚も、奪われるって。なのにどうして、お前の声は聞こえるんだ?」


その問いかけにケルベロスは、やっと聞いてきたか、と言わんばかりに、鼻をフンと鳴らした。


「勘はいいみたいだな。本来なら、聴覚が奪われてる時点でお前に声は届かねぇんだ。けど、俺とお前は一心同体。2人の思念が一つの肉体に宿ってる。だから、“話す”ってよりは、“伝える”のほうが適切だな」

話す、じゃなく伝える・・・か。

確かにその説明なら納得、だな。


「・・・おい、ちょっと待て。俺は今ここにいる。ってことは、今、アポロンは!?」


「デケェ声出すなよ。当然、外に一人だ。いつでもお前を殺せる」


なっ・・・!?

そんな大事なことを、コイツは今頃・・・!!



「外部干渉が不可能だ、と言ったが、アポロンは別だからな。奴が創り出した空間なんだ、奴の好きなタイミングで無にできるさ」



「ふ・・・ふざけんなっ!!」



全身へ魔力を巡らせ、即座に練り上げる。


だが、何か変だ。

力の入り方が、いつもと違う。


「無駄だぜ。ここは奴の統治領域の中。魔法は使えない」



魔法が・・・使えない・・・!?



「じゃあ、どうしろってんだ!!」


声を荒げる俺に、ケルベロスは至極冷静な声で応じた。


「何焦ってやがる。お前には仲間がいるじゃねぇか。ガイア達を信じろよ」



それは、ケルベロスにしては少しおかしな発言だった。


いつもはそんなことを言ったりはしない。

俺に何かをしてくれる。

決して仲間を頼れ、なんて言わない奴、それがケルベロスのはずだ。



「仲・・・間・・・・・・」


そうだ、そうだった。

ガイアが、アスカが、バレットが、イディンが、流星が、マリアが、皆がいるじゃないか。


皆を信じるんだ・・・!!



「けどわりぃなケルベロス。俺はここを出るぜ、何としてでも!!!」


「あぁ、それでこそライナ・ウェルドだ」




―――――やってやるさ、何度だって!!!!






決意を固めるライナを、アポロンは冷たい目で見下していた。


目の前には、大きな、直径にして4mほどの黒い球体があった。


ライナは、この中に閉じ込められている。

故にアポロンは、いつでも殺すことができるのだ。


「これが、希望を捨てなかった者の末路だ。死ね」

語頭が弱く、憐れみを抱いていた。

そして、その語頭のせいで、語尾の『死ね』という単語が、嫌というほどに強調される。


球体に向けられた右手に、禍々しい魔力(ディーガ)が収束されていく。


恐らく、というより間違いなく、『終焉(エンド・オブ・ワールド)』の空間ごとライナを消すつもりだ。


「私を三下呼ばわりして、その程度だったか・・・。消えろ―――!!!」

収束された闇が、いっそう巨大になり、アポロンの手から放たれた。


黒い球体に、さらなる“黒”が迫る。


黒く、重く、絶大な闇が――――。





    エターナル・ウォール

「聖なる防壁!!」


アポロンの攻撃が届くよりも速く、アポロンが気付くより速く、それは起こっていた。


光る壁が、球体とアポロンの間に出現したのだ。



当然、アポロンの攻撃はそれにぶつかり、無に還る。

防壁を破壊して―――。




パラパラと舞う欠片の中、粉塵を巻き上げ、舞い降りる影があった。

その数、6人。




「・・・何者だ・・・?」


その問いかけに、中央の人物はクスッと微笑をもらした。



「僕?そうだなぁ・・・。通りすがりの英雄、かな?」

その人物の名は・・・



「ガイア・アルファイドか・・・!!」

ギリッと歯を食いしばり、その人物を凝視する。



パラパラと舞う欠片が陽光を浴び、淡く輝く。

その輝きがガイアを照らしていたことは、言うまでもない。


余裕そうに佇むその勇姿は、紛れもなくガイアのものだった。




「なるほどね・・・。ライナ君はその中、か」
目線を球体にやり、ボソリと呟いた。


一瞬で状況を判断し、アポロンをキッと睨む。



「さすがはガイア・アルファイド、とでも言っておこうか」



「アンタに褒められても嬉しくないんだけどね」

淡々と口を動かし、アポロンの挙動に目を光らせる。


対するアポロンも、ガイアの一挙手一投足に過敏になっているようだった。


ライナを戦ったときにはなかった焦りが、何故か今のアポロンには生まれていた。

人数故の焦りか、ガイアの纏う雰囲気故の焦りか、今一つ分からないが、それでも、ガイア達にとっては一歩進歩したということだ。




「ガイアァ。んなめんどくせーことはいいからよぉ、さっさとやっちまおうぜ」


「バレットさんに同意。確かに、コイツはさっさと倒した方がいいよ」


「たまには思うがままに動いてみないと、ね?」


「お堅い主義じゃ肩凝りますよ?」


「人数ではこちらが勝っていますが、気をつけて」



全員が全員、目に光を灯している。

呼吸、脈拍、気持ち、全てが落ち着いている。

唯一高ぶるのは、希望のみ。


アポロンさえ倒せば、全てが終わる。

残るは、アポロンのみ。

そういう、希望。


「面白い・・・。やってみろ―――!!!」




場にいた全員を強烈に圧迫するその怒号が、全員に火を点けた。




 ティエンテ・オブ・クーエリア

「麗音宝剣!!」


  フィアンジャ・オブ・グラン

「瀑焱宝剣!!!」


  ヴルピラ・オブ・パルド

「劉角宝剣!」


  ティブラ・オブ・マリア

「創命宝剣―――」




鮮やかな魔力(ディーガ)が4人の体から噴き出ると、それは瞬時に武器の形となった。



フルート、両手剣、槍、杖。

麗音、瀑焱、劉角、創命。



宝剣4つが淡く煌めき、光を放つ。






「さぁ、いくよアポロン―――!!!!!」


戦塵を切って飛び出したのは、宝剣を持たぬ、ガイア。


実力を考えれば至極当然のことだが、それでも幾分、不安が残る。



宝剣とは、ただの武器ではなく、術者を外部からの衝撃から護ってくれる。

宝剣の加護、とでも呼べばいいだろうか。


それが、ガイアにはないのだ。


だが、ガイアは臆さず、地を力強く蹴る。




    フィラルガ・ドラギシア

「炎刃轟龍剣!」

右手一本に、緋色に瞬く魔力(ディーガ)が収束され、瞬時に、刃を持った刀身へと姿を変えた。


流れるような美しい刀身に、時折炎がチラつく。



柄を両手でしっかりと掴み、アポロンを視野の中央に収める。


「無駄なことを・・・!!」



左手をスッとガイアに向け、ボソリと、魔法名を唱えた。



   アトミシア・ドラグリーゼ

「神龍豪焱弾」



ライナの防壁を砕いた時よろしく、二つの巨大な火球が、アポロンの背後にボウッと現れた。



「逝け」


死ね、ではなく、逝け。


先程の『死ね』よりも重く、ずっしりと重量を帯びた言葉が、ガイアの中で嫌に大きく反響する。



その直後、二つの巨大な火球から、夥しい量の小さな火球が飛び出してきた。



ライナはこれを防ごうとした。


ガイアは・・・。


   ステップド・ソニック

「段列瞬動!!」


瞬間、ガイアの姿が消えた。



だがそれは、“消えた”のではなく、ただ単に“移動した”に過ぎない。

超高速で、ジグザグに。



『瞬風(ソニック)』や『光瞬動(ヴェル・ソニック)』は、あくまで“直線”での高速移動。


タナトス戦で見せた、『円突瞬撃(ループ・ソニック)』は、半円を描く高速移動。



そして、『段列瞬動(ステップド・ソニック)』は、左右への高速移動。



さながらステップを踏むような、無駄のない動きで、ガイアは火球を避け続ける。

「なっ・・・!?」



ここにきて初めて、アポロンは驚きの声を漏らした。



攻撃を避けたことが、ではない。

自身に向かってくることが、だ。


「はああぁぁぁァァァァッ!!!!!」


地を蹴り、上空へ跳躍したガイアが、『炎刃轟龍剣(フィラルガ・ドラギシア)』をガッシリと握り、振り下ろす。



「愚かなッ!!!」



左手を、上空にいるガイアに向け、火球の進路を、前方から上空へと変えた。


当然、上空にいるガイアに、夥しい量の火球が迫る。




「燃え尽きろッッ!!!」


「ヤバッ・・・。これは・・・避けられない・・・ッ!!」



自由落下を続けるガイアに、避ける術はない。

翼を出そうにも、時間がない。



火球が、ガイアに直撃する、その直前だった。


アポロンの目の前に、歌詞が浮かび、唄が流れ出したのは。


『汝の劍 我の盾 散れ散れ火花 跳び回れ 天が定めし1つの勝負 それ故決まる 我の勝ち』






   ティエンテ・ラルグラド

「麗音・守閣!!」




ドオオォォン!!!


ガイアの目の前で、火球が弾けた。

黒煙を上げ、 火球を防いだのは、アスカの宝剣、『麗音(ティエンテ)』によって能力付加された、大気。

しかし、大気故に、その防壁はすぐに崩れ去ってしまう。


だがガイアは、その大気の壁によって生み出された、一瞬の隙を見逃さなかった。


その壁を足場に、アポロンの背後へと跳ぶ。



「無駄だッ―――!!!」

ガイアの動きに合わせるように、アポロンはその左手で宙をなぞった。


火球が、アポロンを中心に扇形に広がり、最終的には背後に回ったガイアに向けられた。



「まだ、僕はッ!!!」


剣を握る手に、力が入る。


同時に、魔力(ディーガ)も。




  フィラルガ・ウェイブ

「炎斬破!!」



ボウッと刀身が光り、直後、巨大な斬撃が剣から飛び出した。


炎より生まれし、炎の斬撃。

それが、火球に向かって。



空中で、凄まじい爆発と、爆風が巻き起こり、辺り一帯のモノを吹き飛ばす。

その爆風に煽られ、ガイアは体勢を崩しかけたが、体を捻り、それをなんとか回避した。




トン。



地に片足が着いた瞬間、ガイアは前へと駆け出していた。


同時に、詠唱を口にしていた。

恐ろしいほど、早口で―――。



「緑火の旋風。砂塵の仙風。断ち、砕き、万物を斬れ。踊り、狂うは終焉の劫火。奏で、舞うは惨禍の嵐風。恐れ、怖じるは戦慄の乱撃。雷鳴轟く嵐の中で、烈火に悶え、砕け散れ。王でありし我に平伏せ。龍でありし我に平伏せ。双火と砂塵と嵐と惨劇。抗う者を朱で染めよ。乱堕の果てで、朽ちて死ね!!」



 ストーム・ディオグレイ・ワイバーン

「神嵐飛龍双牙!!」



直後、辺りのモノを一切合切砕くような、巨大な飛龍が、ガイアを中心に生まれ出た。



グオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!



風の切り裂く音が、叫び声のようにこだまする。

一瞬ブルッと身震いしたアポロンだが、すぐに平静を取り戻し、ガイアに、というより『神嵐飛龍双牙(ストーム・ディオグレイ・ワイバーン)』に向け、魔法を放った。



  ライジリーディ・ヴィマーリア

「雷神爆尖光」


バリバリと大気を引き裂く雷が、アポロンの左手から放たれた。




グオオオオォォォォォォォォ!!!!!



バリバリバリ!!!!!




嵐と、雷(いかずち)。



それが相見えたとき、刹那ではあるけれど、無音の時が流れた。




それに一瞬遅れて、爆音と爆発と爆風が、放射状に撒き散らされる。



「愚かな・・・」


ククッと微笑を浮かべたアポロンが、ガイアを嘲笑った。



「早く来い、ガイア・アルファイド。お前がこのタイミングでこの魔法を使ってくるということは―――」



アポロンは、そこで意図的に言葉を切った。

まるで、次のガイアの行動を待っているかのように。



アポロンが言葉を切った直後、爆風の中から、猛スピードで向かってくるガイアの姿が現れた。



「そう、こういうことだ」


自身の行動が読まれていることがあまりに予想外だったのか、自身の前で身構えるアポロンに、ガイアは戦慄を感じた。



「なっ・・・!?」



ガイア本人としては、完璧な奇襲のはずだった。

だが、ガイアの作戦構築能力よりも、アポロンの予知能力の方が上だったのだ。


ボソリと、勝ちを宣告するかのように、口を開いた。



   ドギア・ジャッジメント

「神断殺刃」




ザッ。



ガイアがその攻撃に対し身構える間もなく、“それ”は起きていた。



「がっ・・・あぁぁ・・・」


何が起こったかさえ判断する間もなく、ガイアは、刃もろとも斬られていた。

右肩から、左腰にかけて、斜めに、一直線に。




「まずは、一人・・・!!」

血を滴らせた刃を片手に、アポロンが、不敵に微笑んだ。



同時に、“ガイア”も。



「甘いね・・・君」



アポロンの目の前で、ガイアは、銀色の液体になった。


バシャッと音を立てて、ガイアだったそれは、地に吸い込まれていく。



「何ッ・・・!?」



アポロンの背後で、マリアが、ニッと笑みを零した。




「『鏡映獣(コピーレイズ)』、ver.ガイア、ですよ、アポロン様」


「そういうことさ、“三下”」

わざと『三下』という単語を強調したガイアが、アポロンの背後にいた。



「あの・・・爆発の時かッ!!!」


怒りで歪んだ顔が、ガイアに肉迫する。



「その通り。キズナの力、ってやつかな?」


手に持った剣をより一層強く握り締め、アポロンに向け、地を蹴った。



いつものアポロンなら、ここで防御魔法、ないしは攻撃魔法を発動させただろう。

だがしかし、今のアポロンは、平常心と余裕を失っていた。



故にアポロンは、そのどちらもせず、ただ後ろに跳ぶしかなかった。



その行動が、決定打だった。




ゴオッ。


バチッ。



二つの小さな音が、アポロンのすぐ後ろで鳴った。

アポロンが振り返る間もなく、彼は、全身の自由を奪われた。


全身を駆け巡る、炎と雷(いかずち)によって。


同時に、ケラケラと軽快な笑いが、辺りに響いた。



「すっげーなガイア。お前の罠。マジで予想通りだ」


「あとはライナさんさえいてくれたら、完璧だったんだけどねぇ」


退屈そうに笑みを零すのは、マリアの横で地に宝剣を突き刺す、イディンとバレット。


その先端からは、炎と雷(いかずち)が、僅かに迸っていた。


アポロンを縛る、さながら蜘蛛の巣のような、炎と雷(いかずち)が、決定打となった。




「くそッ!!人間・・・風情がァァァ!!!」



神の力を以ってしても、宝剣二つによって創られた網は、そう簡単には破れはしない。

まして、平常心と余裕を失っているアポロンにとっては、尚のこと不可能だ。




「これで終わりだよ、アポロンッ!!!」



地を蹴り、宙へと跳んだガイアは、切っ先をアポロンへと向ける。




射抜くべきは、左胸、心臓。

その一点めがけて、渾身の力を込めた。










ドッ。














生温かい液体が、刀身を伝い、ガイアの手に触れた。



「がはっ・・・!!」


口から血を噴き出したアポロンが、苦しみと苦痛に顔を歪める。



「はぁ・・・はぁ・・・。ライナ君、見てるかい?終わったよ・・・」


ガイアは視線を、アポロンから、ライナが閉じ込められている球体へと移した。


同時に、鳥肌が立った・・・。


アポロンを倒したにもかかわらず、球体が砕けていないのだから・・・・・・。




「何・・・で・・・!!!?」


ガイアはこの時、自身が犯した過ちを、本能的に察知した・・・・・・。






-『終焉(エンド・オブ・ワールド)』空間内部-




ライナは、精魂共に諦めようとしていた。


幾ら走っても、出口が見えない。

幾ら魔力を灯そうとも、魔法が発現しない。

幾ら足掻こうとも、この場から出ることさえできない。


今や、どちらが上で、どちらが下なのかさえ、判別できなかった。



「くそっ・・・!!!どうやって出るんだよ!!」

悔しさが、言葉になって口から出た。




「ライナ・・・」


「あァ!?何だよケルベロス!!」

イライラからか、声が荒くなる。

だが、そんなライナにもケルベロスは柔らかく接した。



「ガイア達が、やったようだ」


「『やった』って・・・倒したのか!?アポロンを!?」



その問いかけに、ケルベロスは、いいや、と残念そうな声を漏らした。



「一撃、浴びせただけだ。死んじゃいない」


「見えるのか・・・?」


「いや・・・“分かる”」


どう違うのか、ライナには皆目見当がつかなかったが、それでも、このタイミングで嘘をつく意味がないし、その必要もない。



「ならこのままの勢いで・・・!!」


表情が笑みへと変わったライナに、ケルベロスは非情なことを言った。



「無理だ」


と。


そして、こう続けた。


「このままじゃ、ガイア達は死ぬぞ」



「死ぬ・・・?何でだよ!?」


「アポロンはまだ、宝剣を使ってないだろ?」


確かに、とライナの中で合点がいった。


同時に、じゃあ、という疑問が湧き上がる。



「どうやったらアポロンを倒せるんだよ!!?“あの作戦”だって、今のままじゃ使えないッ!!」



「・・・」



その問いに、ケルベロスは何故か口を開かなかった。


否、開こうとしなかった。



「おい、ケルベロス?」


追撃を加えるかのように、ライナが再度、ケルベロスに声を投げかけた。



そこでようやく、ケルベロスはその重い口を開いた。




「一つだけ・・・あることにはある・・・」



「なっ・・・!?あるのか!?だったら何で最初から――――」


ライナの激昂を遮って、ケルベロスが重い言葉を口にした。



「お前が危険になるからだ・・・」


その言葉の意味が、ライナは分からなかった。

首を傾げ、「どういう意味だ」と訊ねる。



「奴を倒すには、『鬼憑型・参(デーリティ・サード)』以外に、宝剣だって必要になる。それに加えて、この空間から脱出するためにも、もう一つ、大魔法が必要になる。一度にそんなに大量の魔法を授けるってのは、精神にとっても肉体にとっても危険なんだよ・・・!!」



悲痛な叫びのように、それは聞こえた。

一心同体のライナだからこそ分かる。

それは、嘆きだった。



自身が戦えないことに対する、深い、深い嘆き。


それが、言葉越しに、ライナに伝わってくる。





「それが・・・どうした・・・?」


小刻みに震える手を抑え、笑みを零してみせた。



「まさかお前、俺が死ぬとか思ってんのか?ハッ、だとしたお笑いだな」



そこでもう一度、沈黙が流れた。

重い、重い沈黙が。


その沈黙に堪えかねたライナが口を開こうとしたとき、ケルベロスが震える声を絞り出した。


「・・・本当に・・・いい・・・・・・のか・・・?」



考えに考えた末の、確認の言葉。


その問いに、ライナはまっすぐと、自分の気持ちをぶつけた。



「もちろんだ!!だから、俺に力をくれ、ケルベロス!!」


その揺らがぬ思いに、ケルベロスはフッと微笑を漏らした。



「ちゃんと呼べ、俺の、“名”を」


微笑に混じり、何故か震える声が響いた。

泣いているのか、嬉しさが込み上げているのか、暗黒の世界では、それすら分からない。



だが、ライナは、敢えてそれには触れなかった。

触れずに、再度口を開く。






「あぁ、わりぃな。俺に力をくれ、“ケルディア”!!!!」



これが、ライナがケルベロスを『ケルディア』と呼んだ、最初の瞬間となった。



「チッ。しゃーねーなぁ。その代わり、ちゃんとコントロールしろ」


舌打ちしたケルディアだったが、その舌打ちからは、何故か嬉しさしか伝わってこない。




「ありがとな、ケルディア」







直後、ライナの中に、ポウッと、火が灯るように、温かな“何か”が、しっかりと生まれた。








「これが・・・お前の・・・宝剣・・・なんだな・・・」



胸をギュッと握りしめ、決意を固めた。






「まずは脱出、だな」




スゥっと息を吸い、魔法名を、静かに唱える。







          スピニング・オブ・ワールド

「―――創  誕―――」








暗転した世界が、終わりを告げた――――。










第7章  第14話  完












すいませんでしたァァ!


実に1ヶ月、ブログを放置、果ては2ヶ月、小説を放置!!!




ホントに、すいませんでしたァァァァァァ!!!!!!!!!!



自分でも呆れてます・・・。



アンド、文章力の著しい低下に、自分でドン引きしてます・・・。



なんか泣きたい・・・www





とりま、3月中には第1部を完結させるつもりで頑張ります!!!



あっ、今回、最後の方があり得ないくらいグッダグダでしたが、そこは温かい目で見守ってやって下さいm(_ _ )m




では最後に、次回予告!!!



第7章 第15話-天創、天極-


遂に揃った、勇士達。


宝剣を手にしたライナは、ガイアと共にアポロンに立ち向かう。


いざ、最後の決戦へ―――!!




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