「火花」が芥川賞を受賞した時

文藝春秋を買って一気に読んだ

その時に一緒に受賞した

「スクラップ・アンド・ビルド」も併せて読んだ

 

正直その時は

「スクラップ・アンド・ビルド」の方が

好きな作品だった

 

「火花」に流れる

夢を追い求める若者の

どこか報われない閉塞感のようなものが

物凄く重く感じたのと

想像もつかない世界の話で

自分の中で共感ポイントが

見つけづらかったからというのが理由だった

 

そこから数年経って

林遣都という俳優を好きになり

ネトフリに加入までして見た

ドラマ「火花」

 

彼の丁寧で繊細な演技もさることながら

そのリアリティを追求する漫才のシーン

裏話を聞けば聞くほど

力の入れようがわかる

 

私は子供の頃からお笑いが大好きだ

その中でも特に漫才が大好きで

3歳くらいからある記憶を辿ると

テレビが白黒時代から

父親が流す演芸番組や

ラジオから流れる漫才を

BGMのように聴いて育ってきた

 

今では他界された大御所の漫才を

ずっと聴いて育ったので

今でも私は

正統派しゃべくり漫才というものが

たまらなく好きである

 

「火花」の中にも出てきた

「夢路いとし・喜美こいし」のお二人は

子供の頃から大好きだ

 

劇場にも最近は通うことがある

NGKでは前半が漫才と落語、

後半が吉本新喜劇の二部立てで

とにかく笑いっぱなしの数時間を

何も考えずに過ごすことが

大好きだ

 

若い人もベテランも

その数分間に全力を注ぎ

爆笑させることだけに集中する

そのライブの圧倒的な空気は

やはりテレビでは味わえない醍醐味がある

 

その表舞台だけを見ると

ただ面白い事だけを喋って

いいなぁと思われるが

その裏での葛藤や苦しみ

辛い思い、悔しさなどがある

だけどそれは絶対に見せない

 

「芸能」というのはそういうことだと思う

自分の裏の努力は見せずに

表舞台で一気に花開かせ

見ている者の心を

その世界で自由にさせることが

「クリエイティブ」ということだと私は思う

 

ドラマ版「火花」は

浮き沈みや報われない努力

夢を追い求める気持ちと

どこかで折り合いをつけなければいけない葛藤

そういうものが丁寧に描かれていると思った

 

とりわけ「贔屓」の遣都くんの演技は

こちらが時間を忘れて没頭できるくらいに圧巻だ

 

彼が泣く時、笑う時、悩む時、迷う時

こちらも同じ気持ちで引き込まれている

 

そこにいるのは「徳永太歩」であり

夢を追うひたむきな「お笑いバカ」の

若い漫才師だった

 

もう何度も言っているが

彼の演じた役は全て実在していると

私は思っている

 

いや、いないとわかっていて

実在していると思わせる説得力がある

 

だから私は今も

夢半ばでお笑いを辞めた徳永が

どこかの劇場で誰かの漫才を見ながら

台本書いてるんじゃないかと

思ったりしている

 

NGKではトップバッターが

まだ芸歴の浅い芸人で

そこから順にベテランへと移行していく

 

若い漫才師でも様々だ

いきなり爆笑かっさらうコンビもいれば

「うん、おもしろけど、あとちょっと」

というコンビもいる

 

だけど彼らが舞台袖で

ブツブツと練習しているだろう姿が

最近は見え隠れして

頑張って欲しいなぁと思うようになった

 

夢を掴むのはほんの一握りだし

掴んだ後に手放さないようにするのは

一生努力が必要になる

 

ちょっとしたことで足元をすくわれて

転がり落ちる危機と常に隣り合わせの世界で

しのぎを削って天下取りを目指す人たちが

全員「徳永」に見えてくる

 

だからと言ってお情けでは笑わない

あかんもんはあかん

と言うのはやはり関西人の性質か

 

「火花」の撮影裏話を

徳永の相方・山下役の

好井まさおさんがnoteで連載している

有料なのでこれはもう彼のファンか

遣都くんのファンが課金するんだろうが

 

役者である波岡さんと遣都くんは

村田さんや好井さんよりは

ずっとずっと華やかな世界にいるように見えるが

4人ともが悔しい思いや報われない思い

泥水すすって生きて来た部分で

共有する気持ちがベースにあって

あの不思議な連帯感が生まれたのだと思うと

連載を読み終えた後に

また「火花」を見たいと思わせる

 

遣都くんのように

デビューから鮮烈なインパクトを与えて

しばらく主演が続き

今では「実力派」と誰もが認める人ですら

苦しい時代を生きて来たというのは

やはり彼の演技の深さや奥行きに

影響しているのだろうと思う

 

ただひたむきにまっすぐに歩くのは難しい

邪な気持ちや

諦める気持ち

腐ったり拗ねたり後ろを向いたりするのは

当然誰にでもある感情だ

 

だけどそこから逃げないで走り続けた先にある

誰もが見るわけではない風景を

彼らは目にしたのだろうと想像すると

自然と涙が流れてしまった

 

一般人ですら生きづらい世の中である

表舞台に立つ人はもっと生きづらいだろう

 

誰もが人を責めるだけではなく

相手を認めるところから始める事ができるようになれば

もっと違う世界が広がるのにと

争いごとが下手で苦手な私はいつも思う

 

だけど、誰かを攻撃しなければ

生きていけないほど追い詰められている人がいるのも

紛れもない事実だ

 

そんな時に心を救ってくれるのはいつも

「エンターテイメント」だと思う

 

私は阪神淡路大震災の時

家を失い、経験したことのない

明日どうなるかもわからない中で

SMAPの歌で励まされ

お笑い番組で元気をもらって

なんとか生きて

自分の家族を持つことが出来た

 

だから自らの辛さを隠して

一瞬でもこちらの辛い現実を忘れさせてくれる人たちが

今日も元気で幸せでありますようにと願う

 

そして今を必死で生きている

「徳ちゃん」がいつか花開くようにと思う

 

また「火花」が見たくなってきた