山の中。・・・さらにそこからガードレールすらない山道を延々と登っていく。

車1台がようやく通れる舗装されてない道。その先の寒村。

 

そこが、ヤツの生まれた場所だった。

 

高校は当たり前として、中学校すらがない。

 

ヤツが通っていた小学校は「村の分校」だった。

 

 

国立大学がこの地・・・ボクが夜逃げでやってきたこの町・・・・転校してきたのは小学校5年生の時だ。

家族と離れ離れになり、親戚だといわれる家にひとりで居候をしての転校だった。

 

 

 

・・・・おそらくは「教育」のための転校だったんじゃないかと思う。

 

 

山奥の村の分校小学校を卒業し・・・・そこから、地元の・・・送迎バスの中学校・・・しかし、そのあと高校はどうする・・・

 

いずれにしろ、ひとり暮らしが必要になる。・・・・さらには、「教育格差」の問題。

 

・・・・それであれば・・・中途半端な町の中学校、町の高校へ行かせるくらいなら・・・同じ「ひとり暮らし」となるのなら、中学校からレベルの高い学校に入れてしまった方がいい。

 

 

ボクたちが住んでいたこの地は、日本海側では有名な教育熱心な地だった。

 

 

ボクにとっては、・・・・閉鎖的で、嫌な町でしかなかったけれど、全国的には「教育熱心」で知られた町だった。・・・・だからこそ、よけいにボクには合わなかったんだろう。

 

この地の高校・・・・その最上位の進学校からは、毎年数人を「東大」に送り出している。

 

進学塾すらないような町だ。・・・ボクたちが子供の頃には、この町に「塾」という存在はなかった。

それでありながら「東大」進学まで果たす・・・・どれだけ公立高校の教育が熱心なのかがわかる。

 

・・・・そこに、ヤツは見事に合格していた。

 

 

・・・・おそらく・・・

 

ヤツは、小学校からの、この地への「留学」だったんじゃないのかと思う。

 

 

中学校では成績がピカイチ。文武両道だったそのままに、寒村の分校では、その才能は突出していたんだろう。

 

・・・このまま、村に止めておくには惜しい・・・

 

であれば、できる限りの教育の機会を与えてはどうか。

 

さりとて、そんなことは簡単にはできない。

金銭的にもかなりの負担になる。

 

そこを援助したのが、地元企業だったのではないか・・・いや、そもそもが、地元企業主体の話なのではないか。

 

ヤツが住んでいた親戚の家・・・じつは、地元企業の縁戚ではないのか。

 

 

高校生の頃。

いつも麻雀で集まるといった時にはボクの家が多かった・・・ボクは高校生でアパートで一人暮らしをしていた。

そして、次が雅裕の家。

 

・・・・国立大学の家で麻雀をしたという覚えがない。

 

 

・・・もちろん、遊びに行ったことはある。

 

なんとも・・・微妙な空気だった。

 

まぁ、「親戚の家」だと聞かされていた。

 

親、兄弟の家じゃない。

 

それだけで遠慮はある。・・・しかし、それ以上に微妙な雰囲気を嗅いでいた。

 

 

 

寒村。

寂れていくだけの町。

 

日本の交通幹線網からは外れ・・・このままでは寂れていく一方の町。

 

伝統工芸のみしか産業のない町。

 

・・・その未来を託されたのが国立大学なのではないか。

 

町を挙げての教育留学。中学校留学。

・・・・そして勉学に励み、・・・もちろん絶対条件が学費の安い国立大学。経営学部。

そこを卒業して地元に帰る。地元老舗企業の・・・・後には「経営幹部」となること。

 

・・・・そして、この地を建てなおすこと。

この町を存続させていくこと。

この町の未来を背負うこと。

 

 

それが、国立大学に課せられた、人生のミッションではなかったのか。・・・ヤツが背負った「宿命」ではなかったか。

 

「運命」は変えられる。

 

・・・しかし、「宿命」は、生きて行くに当たって背負ってしまったものだ。決して逃れられないものだ。

 

 

・・・・たぶん当たっている。

 

 

案内された工房。

その中で、国立大学の両親が働いていた。・・・・いち職工さんだったけれど。

 

もう、奥地の寒村は廃村となっていた。

 

今は一家で地元企業で働いている。

 

 

「中学留学」

 

突拍子もない話じゃない。

 

なぜなら、彼女もそうだったからだ。

 

彼女だけじゃない。

 

中学校の時、意外とそんな生徒に出会ったことがある。

 

 

 

国立大学。

 

ヤツの人間としての芯の強さ。

・・・・どこか、「覚悟」を感じさせる背骨がシュッと伸びたような佇まい。

何があっても笑顔で乗り越えていく力。

 

国立大学は、追い詰められても、決して笑顔を絶やさない。

追い詰められても、追い詰められても・・・その逆境を楽しんでる風にすら見えた。

 

 

「さーて・・・どうやって乗り越えていくっかな・・・」

 

 

ニヤニヤと、・・・逆に舌なめずりをして、楽しいゲームをクリアしていく歓びすら感じてるように見えた。

 

 

・・・コイツの人生は、ボクなんかが想像もつかない、多くの人間の未来を背負ったものなんじゃないのか。

 

 

「オレは東京で生活するなんか無理やわ・・・行けんわ」

 

 

果たして、あれは本心だったのか・・・

 

 

直也が話している。

 

雅裕が、国立大学が的確な質問をする。

 

 

・・・・話は尽きない。

 

いくらでも話していられる。

 

 

直也の前。ケーキの皿が、また一枚増えていた。

 

ボクも、珈琲を何杯飲んだだろう・・・

 

 

すっかり深夜になっている。

 

信号は仕事を放棄して黄色の点滅だ。

 

見えていた、家々の光も消えている。

 

一面ガラスから見える夜空には星が輝いている。

 

 

 

直也が、雅裕が、国立大学が、堪らなく楽しそうな笑顔で話している。・・・もちろんボクも楽しかった。嬉しかった。

 

 

人生で、これほど何も考えずに笑えること・・・・何も考えずに、言葉を選ばずに喋れる時間はない。

 

 

久しぶり・・・・年に数回しか会えない親友たちだ。

 

 

 

・・・・しかし、

ずっと続いていた「ゴルフ大会」は、直也とボクの倒産騒動から中止となっていた。

 

 

・・・・そして・・・

 

今日・・・・

 

 

タカシもアキラも来なかった。

 

・・・・タカシとアキラにしばらく会っていない。

 

 

タカシとアキラとは縁が切れたような状態になっていた。

 

 

 

・・・・何かおかしな雰囲気だった・・・・