まるこの後ろには、
傍聴人が10名ほどいたと思う。
背中に視線を感じていた。



傍聴席の脇にある扉から入り、
席に着くまでの2〜3秒で、
法廷内の空気を感じるには十分だった。



裁判官が入廷してきた。
一同立ち上がり、一礼をして着席するのが裁判所の作法のようで、まるこもなんとなくマネをした。



いよいよ裁判が始まった。
まずは検事が起訴事実について読み上げた。



まるこは新人警察官の時、
上司に教わった捜査の基本の話を思いだした…

  


いいかまるこ、
被害届や調書を書くときは、
犯人について悪く悪く書くんだぞ。




…検事の読み上げる起訴事実は、
耳を覆いたくなるくらい、
悪く悪く書かれていた。
妻としてその場にいる事は、
まさに恥だった。



そしてごり夫が、
検事から厳しい尋問を受けた。
いつも取り調べの様子はごり夫からの伝聞だったので、
まるこはこの時はじめて生々しい事件の描写を聞いた。



そして、まるこの出番…
  


裁判官から、
証言台の前に立つと
氏名、生年月日を聞かれた。



まるこは弁護士さんとの打ち合わせでは、
それは聞かれないと解釈していたから、
少し動揺した。



あの時、
答えずに拒否すれば良かったのかも知れないけど、、、
後ろにいる傍聴人を気にしながら、
まるこは言われるがままに答えた。



検事から意地悪な尋問があるかもしれませんと、弁護士さんから聞いていたので、
まるこはあらかじめ想定できる意地悪な内容を、
何度もシュミレーションしていた。



でも、ぜんぜん意地悪な事は聞かれず、
事件を知った時の気持ちや、
今の気持ちなどの答えやすい内容ばかりだった。



まるこは素直に、
ありのままの気持ちを語って、
席に戻った。




検事はごり夫に、
まるこの証言を聞いて、
どう思うかと尋ねた。




ごり夫は涙声で肩を震わせながら
懺悔の言葉を述べていた。




まるこは睨みつけるように、
じっとごり夫の背中を見つめながら聞いていた。涙がでそうだったけど、
ここはこらえた。



その涙を、
一生忘れるなよ!!