Q&A1769 ☆POFの消退出血のインターバルは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2か月前まで1年3か月の間RCOでお世話になっていました。現在44歳で、RCO初診時から卵巣機能が著しく低下しており一度しか採卵に至りませんでしたが、先生からは多くのことを教えていただき、また、たくさんの癒しをいただき心から感謝しております。

通院中に治療後のホルモン補充療法(エストラーナテープ隔日1枚+余っている手持ちのデュファストン)につきご相談したところ「最近は3か月に1回の出血でよいと考えられるようになってきていて、しっかり出血すればデュファストン1錠でも2錠でも構わない」とお話しいただきました。POF患者が多く通院する関東の有名クリニックに通院していたときも、出血は3か月ごとで構わないように言われましたのでその方針で地元のクリニックにお願いし了承いただきました。が、地元の先生は1か月ごとに出血を起こすべきか、3か月で問題ないかということに関してあまり知識をお持ちでないようです。自身でも調べてみようと思い文献検索してみましたが見つけることができませんでした。もしこの件に関する文献があるようでしたら教えていただけないでしょうか。また「しっかりとした出血」の定義といいますか、内膜をきれいにはがすための出血量の目安に関してもお示しいただけないでしょうか。ちなみに先生に処方いただいたプレマリン+ノアルテン2錠分2 7日間ではしっかりとした出血がありましたが、地元クリニックでは扱っていません。デュファストンを十分な出血量が得られるように調整したいと思います(むくみがつらいので服用量や服用期間は必要最小限におさえたいところです)。生殖医療に携わられている先生には直接関係がないことですので恐縮ですが、この件に関しては妊活中の多くのPOF患者が疑問・不安に思っていることですのでいつか取り上げていただけますとありがたいです。

 

A 3ヶ月に1回の生理(消退出血)があれば良いことについて明確に記した論文はありません。一方で、1ヶ月に1回の生理(消退出血)が良いという明確な根拠を示した論文もありません。そこで、ホルモン剤投与によるリスクを考慮することになります。子宮体癌はエストロゲン単独ではリスクが増加するためプロゲステロン製剤が必要ですが(内膜を剥離させるため)、乳癌は逆にエストロゲン単独は大丈夫ですがプロゲステロン製剤によりリスクが増加します。そこで、エストロゲン製剤をベースにプロゲステロン製剤を時々使う作戦が浮上します。内膜をどの程度の頻度で剥離させれば良いかについて明確な根拠はありませんが、エストロゲン製剤を3ヶ月程度使うと内膜に空胞などの変化が現れるため、その頃がプロゲステロン製剤投与のタイミングではないかと私は考えています。

 

最近では、ピルの使い方にも変化が現れています。1ヶ月に1回の生理(消退出血)を起こすこれまでの方法と異なり、生理(消退出血)を起こさずに持続的に投与する方法が行われるようになってきました。これは、生理により内膜症の悪化が懸念される方や不正出血に悩まされる方に主に行われています。この場合には、最大半年間の連続使用が行われています(つまり半年間生理がない)。このことからも、毎月生理を起こす必要性はないという考えがお分かりいただけると思います。

 

そもそも生理の役割とは何でしょうか。下記の論文を見つけましたので、参考までに記します。

Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 2018; Feb 8. pii: S1521-6934(18)30025-7(イタリア) doi: 10.1016/j.bpobgyn.2018.01.007

要約:生理(月経)の意味については3つの説があります。①精子その他によって子宮内に入ってきた細菌を除去するため、②内膜剥離により相対的にエネルギーを保存するため、③脱落膜を形成することにより、受精卵の侵入から母体を守るためです(脱落膜は妊娠しなければ剥がれます)。進化の過程において、脆弱な部分に疾患が生じることは他の臓器にも共通の現象です。子宮内膜関連では、不育症、癒着胎盤、子宮外妊娠、子宮内膜症、子宮腺筋症、月経困難症、慢性骨盤痛などが該当しますので、これらの疾患が「生理(月経)」をキーワードに解明されることを期待します。

 

なお、「しっかりとした出血」の定義はありませんが、内膜が完全に剥がれればOKです。

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。