Q&A1872 今後の治療方針を悩んでいます | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 卵管片側閉塞(元は両閉塞。原因はおそらくクラジミア)、多発性筋腫(2回手術済)、不育症 APTT 24.4秒(妊娠時バイアスピリン処方)、抗精子抗体 H-H凝集

夫について、精子の数や運動率は問題ありませんでしたが、48歳と高齢です。基本は顕微授精をお願いしています。

治療歴は以下の通りです。
①独身時 未受精卵凍結(38歳時AMH 0.3以下、4回採卵し計5個)
 フォリルモン、HMG投与によるショート法…採卵1
 HMG、セトロタイドによるアンタゴニスト法…採卵0
 プレマリン、クロミッド、HMG、セトロタイドによるエストロゲン・リバウンド法2回…採卵計4個
②結婚後、地元病院で採卵2→2PNで凍結→陰性 
 セロフェン連日投与、HMGとフォリスチムによる誘発
③自然周期系クリニックに転院 
 D3の数値が良好ならセロフェン、高ければ自然周期。
 採卵12回→採卵数合計8→受精6→凍結胚盤胞2
 空砲多し。直近はFSH高値や遺残により中止も多い。
 2回移植→8週流産(15トリソミー)1回、陰性1回

手術歴
①2015年4月 子宮筋腫(腹腔鏡下)
②2016年6月 子宮筋腫(子宮鏡下)
③2016年8月 FT
④2017年1月 卵管形成術(右・開口、左・クリッピング)
⑤2017年8月 流産手術

生理はずっと順調だったのですが、早発閉経といえると言われました。FSHはCD3で、よくて10台前半、悪いと30から40以上にもなります。卵胞は見えても1つか2つ。ごくたまに3ですが、見えないことも。2017年より、生理周期と排卵がズレ、ピルでFSHをさげ、ホルモンに反応して偶発的にできた卵胞を採卵する、といった方法も試しました(変性卵でした)。閉経が間近なのを感じ、今後の治療方針を悩んでいます。
①今後も低刺激で胚盤胞移植を続ける
→採卵すら数回に1回しか成功しないのに、胚盤胞になるような卵がどれだけできるのか。
②確率が下がっても、分割胚移植をする
→40代は体内で分割を進めた方が良いという記事を読みましたが、クラミジアで卵管をやられている自分には卵管で胚盤胞に育てることができるのか。本当に体内の方が優位性があるのかは意見が分かれている
③違う誘発をためしてみる
→独身時採卵でいろいろ試して高刺激は反応しなかった。卵胞が1〜2個しか見えない状態で高刺激はやはり無駄か。高刺激すると卵巣を休ませないといけない。採れる数が変わらないなら低刺激で毎月やった方が確実では。
④IVA に挑戦する
→41歳(多分手術できるとして42歳)で、どれだけ効果があるのか。片側卵管は残っているとはいえ、クラミジアで一度閉塞した以上、卵管を使っての卵胞の育成は無理ではないか。数は少なくても自力排卵している以上、抵抗感はある。
⑤独身時代の未受精卵凍結を使用し、移植に挑戦
→いつかはやるつもりですが、5つしかなく、出産に結びつく可能性は薄い。少しでも若いうちに採卵を優先すべきと思い、最後の手段としていたが、多発筋腫もあり、いつまで妊娠できる体かわからない。移植を優先すべきか。

などなど…。悩みだすとキリがありません。どれが良いと一概には言えないとは思いますが、先生のご意見を伺えればと思いました。

 

A まず、卵胞発育があり生理もありますので、早発閉経ではありません。なお、当院で実施しているFSH調整周期では、FSH 100以上の方も採卵できていますので、FSH値のみで早発閉経と判断するのも適切ではありません。なお、卵巣機能低下とともに子宮と卵巣の動きがバラバラになりますので、生理周期に合っていない採卵も問題ありません。

①採卵の確率が低下している場合には、胚盤胞を狙うより初期胚で勝負した方が良いようです。当院で45歳前後の方の妊娠の多くは、初期胚の2個移植です。
②卵管に問題がある方には初期胚移植はできないとお考えの方(卵管回帰説)がおられますが、これは明らかに間違いです。そもそも体外受精が始まった当初は、すべて卵管因子の方で初期胚移植でした。当時は胚盤胞に育てる技術がなかったためです。したがって、卵管回帰説は体外受精の歴史から排除されます。また、年齢が上がるにつれ、胚は体外での環境に弱くなります。外で培養すればするほど胚の状態が悪くなってしまいます。
③同じことの繰り返しをするよりは、異なる誘発方法をためしてみる価値はあります。また「高刺激すると卵巣を休ませないといけない」場合は、たくさん卵子が採れた場合のみです(例えば20〜30個)。従って、刺激周期を行っても、多くの方で毎月採卵が可能です。
④IVAは現在もなお実験的治療の範疇を超えていません。また、卵胞発育がある方にはあまりメリットがないかもしれません。
⑤少しでも若い時の卵子は宝物です。ぜひ、卵子融解のうえ受精させ、移植を
トライして欲しいと思います。

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。