Q&A1956 絨毛膜下血腫、前期破水、16週死産 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 絨毛膜下血腫による前期破水にて、第一子を16週目で死産してしまいました。

 

体外受精1回目

6週目心拍確認出来ず流産、掻爬手術。その後不妊治療の病院にて、不育症検査(一万円)結果特に問題なし。

体外受精2回目
経過は主に順調で、妊娠3カ月目の頭に少し塊のような出血が数回ありましたが毎回数時間で止まるので診察結果は特に問題なし。その後、妊娠13週目に38度の高熱とともに再度出血がありました。急いで夜間診察へ、その時には出血は止まっており赤ちゃんは元気なので特に問題ないとのこと。ただ赤ちゃんの横に黒い影が見えていて、これが血腫なのか、また別のものなのかはわからず様子をみることに。特に安静にするよう言われることもなくその後仕事などにも行っていました。それからまた出血することもなく16週0日に1カ月検診がありそこでも順調。しかし、検診のたった2日後に突然また出血をしてしまいました。急いで再び診察に行った時には出血少量がずっと止まっておらずでしたが赤ちゃんも順調で、腹痛もないとのことで、様子をみることに。この時子宮口の側に2センチの血腫がみつかりました。週数が浅いため入院も必要なく、仕事にも行って大丈夫と言われましたが、少量の出血が続いてので念のため自宅にて自主的に安静にしておりました。その翌日も出血が止まるどころか増え続け、怖くなり三度診察へ。出血を止める方法はなく自然に止まるのを待つしかないとのこと、赤ちゃんも元気なので安静にする必要もないです。とのことで一週間後に診察予定に。しかし、その翌日また出血が増え、出血が少しサラサラしたものにがわっていたため、また診察を依頼。内診で羊水反応が陽性にかわっていました。
週数が浅いこと、また、感染の危険も考え特に処理をすることもなく、翌日分娩のため入院死産へ。お産の直前も赤ちゃんはずっと元気でした。

 

ネットなどをみると大抵の人は入院して安静にしていたりしています。何故今回の私の場合は安静に必要がなかったのか、、、果たして病院の対応は正しかったのかが疑問に残っています。何がご存知でしたら教えていただけると幸いです。また、絨毛膜下血腫は次の妊娠にも繰り返してしまうのではないかととても心配です。

 

A 医師側から見た診察の状況が明らかではありませんので、患者さん側から見た上記の記載内容から判断するしかありません。片側からの視点のため、その判断が間違っている可能性があることにご注意ください。

 

通常、絨毛膜下血腫(SCH)だけでは即流死産になることはありません。しかし、ここに感染が合併すれば話は別です(感染性流産)。また、このような慢性的な出血が持続する場合に、慢性早剥羊水過少症候群(CAOS)であることがあります。

 

CAOSは下記の条件を満たすものであり、静脈叢の破綻によるものと考えられており慢性的な経過をたどります。 

①前置胎盤などの明らかな出血源なく医学的に無視できない量の性器出血が持続

②当初は羊水量が正常(AFI 5~25 cm)

③明らかな破水の証拠がないにも関わらず羊水過少を併発(AFI <5 cm)

 

CAOSでは破水はありませんから、この場合CAOSに前期破水が合併した可能性は否定できません。絨毛膜下血腫(SCH)は、妊娠中の出血の原因としてしばしば認められ、決して珍しいことではありませんが、絨毛膜下血腫が長期化し血腫が増大して慢性早剥となる場合をCAOSと呼ぶイメージです。しかし、すべての絨毛膜下血腫がCAOSへ移行するわけではなく、CAOSのリスク因子は不明です。

 

切迫流産の場合に、安静(入院)の効果は証明されていませんので、正直なところ「出血を止める方法はなく自然に止まるのを待つ」しかありません。SCHに感染が合併していた場合には感染対策(抗生剤)を行いますが、必ずしも食い止められる訳ではありません。また、CAOSには有効な治療法はありません。妊娠16週でしたら、経過を見る以外に方法はないと思います。

 

1回1回の妊娠は独立したものですので、絨毛膜下血腫を繰り返す可能性は低いと思います。何かしら感染の起因菌が同定できたのでしたら、その対策を行います。予防法としては、ラクトフローラやラクトフェリンによる子宮内および膣内細菌叢の改善、妊娠中の膣内NUGENTスコアによる膣内細菌の定期チェックをお勧めいたします。

 

下記の記事を参照してください。

2017.8.15「Q&A1550 慢性早剥羊水過少症候群(CAOS)とは

2017.6.11「Q&A1484 17週と20週で流産

2017.3.5「嬉しい報告:細菌性腟症管理

2016.12.6「Q&A1296 原因不明の切迫早産

2016.8.10「Q&A1178 破水で出産1回、流産2回

2016.6.27「嬉しい報告:ついに我が子を授かりました

2015.9.15「Q&A820 次こそは生きた我が子を産みたいです

2015.8.14「Q&A787 ☆早産2回、次回への対策は?

2013.7.26「☆膣炎と不妊症の意外な関係

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。