Q&A1960 Q&A1716の続き、流産3回 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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Q 2018.1.28「Q&A1716 流産が心配です」で回答いただいたものです。ありがとうございました。

あの後、プラノバール服用を止めた7日後(BT33)に大量出血があり、近所の産婦人科にて心拍を確認できましたが、翌日自然流産しました。産婦人科医からは「流産はよくあることだから」、不妊治療医からは「不育症の可能性がある」との説明。プラノバールとの関係を質問しましたが、止めたのは血栓ができやすい体質の可能性があり、そのリスクを減らすためとの説明。

その後リプロダクションクリニック東京受診、不育症の検査を受ける。検査結果より、次回の移植日夜より1日2回ヘパリン注射と1日1錠バファリン服用の指示を受ける(不妊治療院に凍結胚盤胞があるため、移植は現在通院している不妊治療院で行い、不育のフォローをリプロ東京でしてもらうことになる)。

過去2回の流産を踏まえ、今まで移植時のホルモン補充をプロゲステロン注射+プラノバールで行っていたがウトロゲスタンにて行うことにし、2度移植するも陰性。2度の陰性を踏まえ、再度プロゲステロン注射+プラノバールにてホルモン補充したところ妊娠反応あり(プラノバールに加え、ウトロゲスタン1日3錠使用開始)。ヘパリン注射とバファリン服用を考慮し、プラノバール服用は胎嚢確認後止める旨伝えられた。不妊治療院にて5w2d胎嚢確認(5.9mm)したため、プラノバール服用中止。代わりにル・エストロジェル使用指示。黄体ホルモンの不足はないか質問したところ、「ウトロゲスタンで十分足りている」との回答。これまでに少量の「ピンクおりもの」があり、都度心配になっていたが不妊治療院より「バファリン、ヘパリン使用時はよくあること。安静にすること」との指示だったため、自宅安静。5w6dに今までより多い出血(生理開始時程度)があり、近所の産婦人科受診。心拍あり。出血があるため自宅絶対安静指示。翌日出血なし。6w1d(プラノバール服用中止7日後)大量出血(生理2日目以上)があり近所の産婦人科受診。「流産の可能性があるが為す術はない」とのことで帰宅。翌日(6w2d)朝、いくらよりも少し大きい透明な丸い塊が出てくる。6w3d、不妊治療院にて子宮内に胎嚢がないことを確認し、流産確定。おそらく前日の透明な塊が胎嚢であっただろうとの見解。

そこでいくつか質問ですが
①プラノバール中止と流産は関係ないのでしょうか。2回の流産はともにプラノバール中止7日後に出血が始まり、流産しています。直前まで心拍が確認できていたのに流れ出たということは、出血が原因で、生きている胎児が流れ出てしまったのではないか、という思いがあります。
②妊娠後にプラノバールを続けることはどのようなリスクがあるのでしょうか。1度目の稽留流産はプラノバールを継続服用していたところ、胎児心拍が消えていたため、プラノバールを続けると稽留流産、止めると進行流産となるのか?と疑問です。次回妊娠反応ありの場合、ずっとプラノバールを服用して様子を見てみたい気がしますが、無駄ですか。
③移植時のホルモン補充で、プロゲステロン注射+プラノバールでは陽性、ウトロゲスタンでは陰性、というのはたまたまなのか、体質的なことなのか、そのようなケースはありますか。
④不育症の可能性がかなり高いと思いますが、ヘパリンとバファリンを使っても効果が無い場合、どうすればいいのでしょうか。また流産するのではと、怖くて次の移植に移れません。
⑤流産したときに出てきたものについて、2度目の流産(7w程度)には、こぶし大の白い塊が出てきましたが、3度目の流産(6w程度)では、いくらより少し大きい透明な塊でした。1週間の違いで胎嚢の周りの組織がこれほども大きく変わるものなのでしょうか。2回目の流産時に出てきたものの印象があったため、先日透明な小さな塊が出てきたときに、きっとこれではない、と思い、余計な心配をしないために見なかったことにして処分してしまいました。

 
A 今までの経過を整理してみましょう。
1回目:ホルモン補充周期、スクラッチ法+胚盤胞1個移植、プロゲステロン注射+プラノバール、陽性判定からプラノバールに加えウトロゲスタン1日3錠開始。心拍確認、8w0dで心拍確認できず稽留流産。
2回目:ホルモン補充周期、スクラッチ法+胚盤胞1個移植、プロゲステロン注射+プラノバール+バファリン、陽性判定からプラノバールに加えウトロゲスタン1日3錠開始。心拍確認。6w4dでプラノバールを止めてプレマリンに変更、プラノバール服用を止めた7日後(7w4d)に大量出血があり進行流産。
 (この後、ウトロゲスタンの移植では陰性2回)
3回目:ホルモン補充周期、スクラッチ法?+胚盤胞1個移植?、プロゲステロン注射+プラノバール+バファリン+ヘパリン、陽性判定からプラノバールに加えウトロゲスタン1日3錠開始。心拍確認。5w2dでプラノバールを止めてル・エストロジェルに変更、プラノバール服用中止7日後(6w1d)に大量出血があり翌日進行流産。
今回で流産3回になったことになりますので、不育症であることに疑いの余地はありません。しかし、これまでの経過をみると、通常では考えにくい状況があるように思います。また、根本的な問題点として、流産胎児絨毛の染色体検査がなされていなければ、母体側の原因か胎児側の原因か明らかにすることはできません。
 
プラノバール中止と流産の関連はあり得ます。ホルモン補充周期の妊娠維持には、エストロゲン(E2)製剤とプロゲステロン(P4)製剤の両方が必要です。前回はプラノバールを止めてプレマリンに変え、今回はプラノバールを止めてル・エストロジェルに変えています。つまり、E2+P4製剤をE2製剤単独にしているわけです。これとは別にウトロゲスタンは継続されていると思いますが、ウトロゲスタンの効果(吸収)が弱ければ当然妊娠が維持できなくなります。
②黄体補充にプラノバールを使用している施設はありますので、妊娠後にプラノバールを続けることはありです。初回妊娠でプラノバールを継続服用していたところ、胎児心拍が消えたのがプラノバール継続のせいとは限りません(もし流産胎児絨毛の染色体検査がなされていれば、この問題はクリアされます)。
移植時のホルモン補充で、プロゲステロン注射+プラノバールでは陽性、ウトロゲスタンでは陰性、というのはあり得ます。ウトロゲスタンの効果(吸収)が弱い場合です。私は「ウトロゲスタンの移植では陰性2回」というところにポイントがあるように思います。つまり、質問者さんの身体は「ウトロゲスタンの効果(吸収)が弱い=全く効いていない」と思います。したがって、プラノバールを中止してE2製剤単独にした時にウトロゲスタンは継続していると思いますが、これが何の効果もなければ妊娠が維持できません。
④これまでの推察から、2回目と3回目の流産は、黄体ホルモン補充(P4)が不十分になったことによる流産と考えられますので、ヘパリンとバファリンを使っても効果が無いとは言えないと思います。
⑤6wと7wでは子宮内の胎児および胎盤の容量は劇的に違いますので、記載された大きさの表現は納得できます。
 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。