Q&A2645 ☆PGT-Aのメリットとデメリット | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている」の記事についての質問が多数寄せられていますので、お答えいたします。

 
Q1 着床できる胚のロスがあるということですが、このロスとされる胚は着床は出来ても流産する胚ということなのではないでしょうか。だとすると、出産率においてはロスにならないということになりませんか。

 

Q2 PGT-Aのデメリットが思った以上に大きく驚きました。着床できる胚にPGT-A実施したために、3割の胚が着床出来ずという研究結果ですが、着床までの話ですが、その後について質問させてください。と言いますのも、私はPGT-Aによって見つかった異常胚は「幾らか」は着床出来る、そして殆ど化学流産か胎嚢確認後の初期流産で流れる、という認識でした。この「幾らか」がどれくらいか知らないのですが、それが多い場合は、異常胚でも殆ど着床してしまうのでPGT-Aは有用だと思いました。一方少ない場合は、つまりPGT-Aで発見できるような異常胚は殆どそもそも着床しないということになり、この論文のようにPGT-Aの有用性を着床是非で判断できると思いました。長くなりましたが、PGT-Aで見つかる様な異常胚のうち、どれくらいが着床出来るのか、またどれくらいが化学流産になるのか、またどれくらいが胎嚢確認後初期流産になるのかを教えていただけませんか。特に手術が必要な初期流産になる確率を知りたいです。何故なら化学流産はしても構わないですが手術を伴う初期流産は出来るだけ避けたいためで、この確率次第で着床前診断を実施するか決めたいからです。

 

Q3 たった3割なら、大したデメリットではないと思います。ほとんど採卵できない人なら勿体無いと考える人もいるかもしれませんが、ほとんどの患者は、流産による身体的・精神的な負担、移植を繰り返すことによる時間・金銭的な負担のほうが圧倒的に大きく、松林先生はそれを全く理解されてないと思います。特に、リプロさんは治療費が他院よりかなり高額なので、リプロで移植を一回やるより、着前やった方が安いわけです。5chの不妊治療スレッドでも、流産があまりにも辛かった、繰り返しの移植があまりにも金銭的・肉体精神的な負担が大きかった、時間のロスもはかりしれなかったので、初めての移植前に着前やっておくべきだったという方がほとんどです。着前慎重派の先生方は、患者の精神・身体的負担、金銭・時間のロスを軽視しすぎです。着前をやる患者は、着前でロスがあるのは分かってますし、医師も説明すればいいだけです。つまり、患者に選択させるべきであって、医師がロスが3割あるからといって、反対したり技術提供をしないなどということがあってはならないと思います。決めるのは患者です。

 

A 

A1 ブログ記事を今一度よく読んでみてください。ご紹介の論文は、正常胚がどの程度着床できるかを計算したものです。42歳までの方はPGT-A実施により、着床できる胚の3割で着床できていません(これをPGT-Aによるロスと表現しています)。着床後に正常胚がどの程度流産するかは明らかではありません(一般的には5〜10%とされています)。

 

A2 PGT-Aで見つかった異常胚は基本的には移植しませんので、異常胚の着床率、化学流産率、(胎嚢確認後)流産率は不明です。子宮内膜には、正常胚を着床させ異常胚を着床させない仕組みが備わっているようですが、何でもかんでも着床してしまう「着床促進」の方がおられるのも事実です。このような方の対策はPGT-Aしかありません。

 

A3 PGT-Aにより着床できる胚の3割が着床できない、この3割をどう解釈するかは、人それぞれだと思います。誤解されているようですが、ブログで紹介した論文の記事の「要約」も「解説」も私の考えではなく、論文の著者の考えを書いています。つまり、「要約」=「Methods+Results」、「解説」=「Introduction+Discussion」をまとめたものです。私の意見が入る際には、「私なら」とか「思います」と表記しています。今回の記事には、私の意見は一切入っておりません。日本産科婦人科学会では順次PGT-Aの認可をしていますので、今後PGT-Aが普及するのは間違いないと思います。PGT-Aにより着床できる胚の3割が着床できないという事実は本論文が世界で初めての報告ですので、論文を紹介させて頂きました。

 

下記の記事を参照してください。

2016.6.6「着床障害と着床促進の代謝産物の違いは?

2015.1.10「☆新しい不育症の考え方:着床促進 その2

2014.12.13「☆新しい不育症の考え方:着床促進

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。