Q&A2798 妊娠中の鍼灸治療で遠赤外線は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 貴院での顕微受精によって無事に妊娠しました。ありがとうございます。とは言えまだ8週ですし、血液凝固異常があるため、しばらくは貴院と産科とのダブル通院が必要です。今後もしばらくよろしくお願いいたします。

今回お聞きしたいのは、妊娠中の鍼灸治療についてです。鍼灸治療を受ける際に、必ず遠赤外線でお腹の深部を暖めることが気になっています。妊活に関する情報発信者の中には、着床後あまり身体を暖めすぎない方が良いという見解を示している方々がいらっしゃいます。そう考えると、着床時期からその後、鍼灸治療の際に遠赤外線治療を併せて受けるのはあまり良くないのでしょうか。

 

A 動物では、理由の如何にかかわらず体温が2℃以上上昇すると流産、胎児死亡、神経管欠損をきたすことが知られています。一方ヒトでは、1970~1990年代の論文では、体温上昇と胎児奇形の関連が多数報告されていますが、多くは感染に伴う体温上昇であり、腹部を暖めることと胎児奇形に関するヒトでのデータはほとんどありません。一方、人口統計を参照すると世界中でヒトの出生には季節性の変動がありますが、国によっても異なります。一番お産の多い月と一番少ない月の差は1日あたりに換算して約2%ですので、それほど大きな差は実際のところありません。また、精子も卵子も受精卵も熱に弱いことが知られています。従って、断定的なことは言えませんが、大事をとるなら、遠赤外線に限らず外部から温めることはできるだけ避けた方が良いかもしれません。

 

なお「鍼灸治療や赤外線で、深部体温が2度も上がることはありません。上がったとしても表面から2センチまでです」とのコメントをいただきました。鍼灸治療の効果を示す論文は多数あります。私は鍼灸治療を否定する訳ではありませんが、妊活中の男女とも高温環境を避けるのは基本的な心構えということを常々申し上げております。

 

下記の記事を参照してください。

2020.9.24「Q&A2697 高温(気温、体温)の影響は?

2013.8.4「☆温泉に入ってもいいですか?

2013.7.22「☆季節により妊娠率•流産率は違うか?

2012.12.1「☆何月が妊娠しやすい?

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。