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松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、自然内膜増殖+黄体ホルモン(NPP周期)による凍結胚移植に関する報告です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 1089(ポルトガル、スペイン) doi: 10.1093/humrep/deae061.

要約:2010〜2022年に一つの不妊クリニックで実施した全ての凍結胚盤胞移植(5791周期)を対象に、自然排卵周期(NC、3216周期)、ホルモン補充周期(HRT、2226周期)、NPP周期(349周期)による妊娠成績を後方視的に検討しました。NPP周期は、初め投薬なしで、子宮内膜厚≧7mm、卵胞≧14mm、P≦1.5が確認ができ次第、黄体ホルモン製剤(膣剤)投与を開始するものです。つまり、子宮内膜が厚くなる部分は自然に任せ、黄体ホルモンは外から投与するもので、自然排卵周期とホルモン補充周期を合体させたような格好です。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

       HRT    NPP     NC       P値

                        HRTvs.NPP HRTvs.NC

臨床妊娠率  50.5%   57.0%   54.4%   NS     <0.01

流産率    34.9%   19.7%   25.0%   <0.01    <0.01

出産率    38.4%   49.1%   45.2%   <0.01    <0.01

妊娠初期出血 37.6%   17.4%   14.7%   <0.01     <0.01 

妊娠高血圧  14.5%   9.4%    8.6%    NS     <0.01

NS=有意差なし

 

解説:凍結胚移植が世界中で広く行われており、自然排卵周期(NC)あるいはホルモン補充周期(HRT)で実施されていますが、最適なプロトコルについては現在のところ定まっていません。ホルモン補充周期のメリットは、最小限の通院回数でできること、移植日程の調整が自由自在であることです。一方、自然排卵周期では、超音波と採血による頻回なモニタリングが必要であり、移植日程の調整はできません(都合が付かなければ移植はキャンセルになります)。完全自然排卵周期では排卵の確認が必要になりますが、改変型(modified)自然排卵周期の場合には、排卵を促すトリガーを用いることで1日前後はフレキシブルな対応が可能です。本論文は、HRTとNCの両者の良いとこ取りをしたNPP周期の有効性を示しています。しかし、後方視的検討であるため結論は出せず、大規模な前方視的検討が必要です。

 

同様の方法による最初の報告は下記です。

Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2021; 258: 179(イスラエル)doi: 10.1016/j.ejogrb.2021.01.004

要約:2016〜2018年にday2初期胚凍結の胚移植を行う45名を対象に、NPP周期による胚移植を行いました。3名は卵胞発育せず除外し、42名中、25名(59.5 %)で妊娠が成立しました。初期流産2名と中絶1名で、22名(52.4%)が出産しました。