平成の 源平ならぬ 父子合戦~第1回神戸マラソン完走記10 | 神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

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還暦を過ぎて体にトラブルが出始めて、ランニングを楽しめなくなりました。近ごろはウォーキングに軸足を移して道内の神社仏閣を巡り、御朱印を拝受したり霊場巡礼を楽しんでいます。いつかは四国八十八ヶ所巡礼や熊野詣をすることが夢です。by おがまん@小笠原章仁

10.クライマックスを前に


 「体はまだまだ楽だ。北海道マラソンの25km地点では、明らかに余力がなくなっていたけど、今日はまだまだ大丈夫。行ける行ける。」


 そうやって自己暗示をかけます。


 コースは往路に別れを告げて、須磨水族園前を通っていきます。沿道も切れ目のない応援で背中を押してくれます。


 「大丈夫」といいながら、徐々に大丈夫ではない状態に近づいているようです。ペースもリズムも変わっていないつもりですが、意識レベルが低下し始めています(笑)。もっとも、これは悪いことばかりではありません。ランナーズハイになって、トリップ状態に入ってきています。


 26kmは5分12秒。27kmは5分39秒。無理をしている感じはなく、サブフォーペースを維持しています。あと15km。この走りを継続すれば目標達成です。早くカウントダウン状態になって残りの時間を計算したい。そんな思いになったのは、どこかで疲れを感じ始めていたからかもしれません。


 27kmエイドにも、洋菓子はありました。でも1人1個と思っている私は、洋菓子に手を出しませんでした。ただ「たけのこの里」も出されていたので、「これは25,000個の洋菓子には含まれていないよな?」と思って1個取り、口の中に放り込みました。


 それからも、5分36秒、5分16秒、5分30秒と、安定したラップを刻みます。この5kmのラップも27分13秒と、完璧と言っていいくらいのイーブンペースです。30km通過時で、手元の時計では2時間52分を切っています。残り12.195kmを68分。キロ6分に落ちると厳しいですが、今のペースを維持できればグロスタイムでのサブフォーも見えてきます。


 後半になるにつれ、歩いている人も増えています。そして歩いている人は、コースの端を歩いていることが多く、私の走るラインと重なってしまいます。ときには前を走っているランナーが突然歩き出すこともあります。私の方も序盤と比べると足が弱ってきているため、急な進路変更や停止をしづらい状況になっています。それだけに、周りのランナーの動きに対しては、前半よりもより注意を払うようになりました。


 この30km付近では、楽しみにしていたことがありました。それはコテを打ち鳴らしながら応援するという、「怒濤の三三コテ拍子」です。30km地点にさしかかるあたりからコテの音はしないかと耳をこらし始めたのですが、ついに発見できませんでした。私自身も弱り始めていて、気づかずに通り過ぎてしまったようです。でも翌日のNHKローカルニュースでその様子も伝えていましたから、どこかでやっていたのは間違いありません。どのあたりでやっていたのでしょう。


 30kmまではウォーミングアップ。本当の勝負は30kmから。そう思いながら、ここまで我慢をしてきました。今回はうまく我慢ができ、力を残した状態で30kmを通過できたと思います。


 ここでGOサインを出すか?


 いやいや、もうちょっと我慢しましょう。経験上、ロングスパートができる限界は10kmです。ここからロングスパートをすると、40km地点で力が尽き、2kmの地獄が待ち受けています。それを避けるために、32kmからのロングスパートにしましょう。


 31kmは5分26秒。まだまだいいペースをキープしています。体の方も大丈夫。北海道マラソンでは30km地点を過ぎると急激に消耗して、もうレースを終えているという感じでした。でも今日はまだまだいける。ここでこれだけ走れていれば、最後まで粘り込むことができる。間違いない。今日は必ず粘れる。これで粘れないようなら、もう自分には粘るレースはできないだろう。そのくらい、今日は完璧なレース運びをしている。私は自分にそう言い聞かせました。


 ホームズスタジアム神戸の横を通過します。ここでは応援イベントをやっています。そちらに向かって元気に手を振りながら通過しました。


 手製のボードを持った応援も目につきます。「足が痛い?それは気のせいだ」というようなことが書かれたボードを、何カ所かで見かけました。


 「その通りだ!」


 指さして大声で言って、自分を鼓舞します。


 32km地点を5分14秒のラップで通過します。時計は3時間2分を過ぎていました。残り10kmを57分・・・。グロスタイムのサブフォーは微妙なところです。5分半のペースをキープできれば大丈夫。でも6分近くまで落ちればアウト。本当に、本当にここからが勝負です。


 32kmからスパートしようという思いでここまでやってきましたが、スパートのタイミングはもう少し遅らせることにしました。35kmからの浜手バイパスの上り。最大の勝負所はここです。ここを全力で駆け上がらなくてはなりません。そこまで力を温存することにしました。


 このあたりまで来て、もはやネットタイムでのサブフォーという目標は忘れました。今日の状態ならば、ネットタイムで4時間を超えてしまうような失速はありえません(と、自分に言い聞かせました)。意識するのは、時計が4時間を示す前にゴールすることだけです。


 32kmのエイドは、フルーツエイドです。でも私はフルーツには手を伸ばしませんでした。水を口に含み、残りは首筋にかけて前に進みます。食べ物の誘惑よりも、サブフォーへの渇望が勝っていました。混んでいる給水テーブルには目もくれずに進み、空いているテーブルでコップを受け取り、1秒でも無駄にしないようにと走りました。


 33kmは5分41秒。34kmは5分27秒。何分何秒のペースで走れば4時間を切れるのか、そんな計算が走りながらできるはずがありません。とにかく最後までペースを落とさず走りきるだけです。


 このコース、ここまではほとんど平坦コースでしたが、最後の山場が待っています。35kmからの浜手バイパス。そしてポートアイランドに向かう神戸大橋。30m弱の高低差があります。


 幸いなことに、留萌で普段走っているコースは30mを超える高低差があります。ですから、この程度の高低差は慣れたものです。ただ、35kmを過ぎてからのアップダウンですから、それがどのくらい体に応えるかが問題です。


 神戸新聞社前を左折し、すぐに右折するといよいよ浜手バイパスの上りが見えてきます。このあたり、応援イベントも数多く行われており、そんな大応援団に送られて浜手バイパスを目指します。(つづく)