「理系研究職の世界」シリーズの(2)です。前回好評をいただけたようなので、他の記事を挟みながら今後も続編を書こうと思っています。リクエストや質問、感想などあればいただけると嬉しいですニコニコ

 

 

さて、今回はどこかで聞いたことがある方も多いのではないかと思われる「理系は国立大学がいい」みたいな話についてです。個々に例外があるのは当然として大枠は私もある面(後述)でそう考えています。

 

ではその理由は何でしょうか。理系は私立だと学費が高いから?それもなくはないのですが、もっと大きな理由が別にあります。

(なお、以下は専門性を身につけるという研究の観点に重きをおいた見方です。大学に求めるものは人それぞれであり、違った価値観を否定する意図は全くないことをあらかじめ注記しておきます。)

 

 

私が考える理由は、研究環境が充実している研究室が多いからです。

分野にもよるとはいえ、理系の研究で「紙とエンピツだけあれば後は頭脳で勝負!」なんてことはほぼありません。理系の研究室は普通は実験器具や装置だらけです。いい研究をするにはお金がかかり、逆にお金がある研究室は成果も出やすいというのが現実です。

 

しかしながら、どんな大学であっても大学から支給される研究費だけではあまりにもお金が足りません。ではどうやって研究費を得るかと言うと、その主要な方法が科研費と呼ばれる国(文部科学省管轄)からの研究費助成に採択されることなのです(総額2千数百億円/年)

 

私が先の記事「力のある先生」と書いたのは、ほぼ「科研費を採るのが上手な先生」と読み換えてもいいくらい、この科研費を採ることが研究室を上手に回す肝なのです。

 

研究費が潤沢で世界で他にあまりないような設備や装置(一般の方でもイメージが湧くかもしれない極端な代表例を挙げると大型放射光施設「SPring-8」とかスーパーコンピュータ「京」とか)があると、世界初の研究成果を出しやすく、そこに優秀な研究者や共同研究先も集まってきて…というヒト・モノ・カネの好循環が起こるのが研究の世界です。

 

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そしてその科研費の採択状況は?というと、令和5年の新規採択件数トップ30機関はこんな感じです(文部科学省HPにある資料を基に作成)

 

 

このようなランキングでは人数が少ない単科大学は見た目上は不利になりますが、東工大と医科歯科大は来年秋の統合が決まっていますので、合算すると430件で8位になります。研究の世界で旧帝大&東工大を中心に、国立大学に研究費がたくさん流れていることが理解いただけるかと思います。

 

科研費が採択されるかどうかは申請書の書き方やプレゼンの上手さもかなり効くと聞いていますが、「国」の研究費の配分をどうするか決める時に「国立」大学や「国立」研究機関に多めに行くのは個人的には当然のような気もします。

 

なお、分野は人文・社会科学から自然科学、農学、工学、医歯薬まで全ての分野にわたっており、分野ごとに採択されている大学の顔ぶれは変わります。上記は全てをまとめたものです。

 

また注意すべき点は、科研費は研究室ごと(正確には研究者ごと)に採択されます。上記でランキング上位にある大学でも、お金がない研究室は個々にはたくさんありますし、ランキング外でも科研費に採択された研究室はお金を持っています。完全に研究室次第です。だから先の記事で「力のある先生」を選ぶメリットが大きいと書いたわけです。

 

 

こういった「力のある研究室」は必然的に企業との共同研究も増えますので、民間企業との共同研究費受け入れ額という指標を見ても大きくは同じような国立大学優位の結果になります(経済産業省HPの「大学ファクトブック2023」より)

 

 

長くなってしまったのでここでいったん切りますが、他の記事を挟みながら次回は「でも力のある研究室に入ると学生目線でもメリットがあるの?」ってところをもう少し詳しく書こうと思います。結論だけ言うとメリットは大ありです。

 

最後に繰り返しますが、これは研究の面に重きをおいた場合の見方です。例えば、外資系金融機関に就職するのに有利な大学はどこ?みたいな話になったら全く話が変わってくることを注記しておきます。