診療時間ギリギリだったが何とか診察してもらえた。
「レントゲン撮りましたが骨には異常ないですね。靭帯を伸ばしてしまったようですので固定して。しばらく負荷をかけないようにしてください、」
「はい、」
骨折なんてことにならずに真緒も初音もホッとした。
会計待ちをしている間に
「ダウンコートも汚してしまって。 本当にすみませんでした。」
初音はまたぺこんと頭を下げた。
「いや、あたしの落ち度だし。スノーブーツ履いてるからちょっとくらい走っても大丈夫だろうって高をくくってたんです、」
「クリーニング代、出させてください。」
「初音さんのジャケットも汚してしまいました・・。申し訳ないです。」
「これは。大丈夫です。なんてこと、ないです。」
苦笑いをした後
「・・あのう、」
神妙に彼女に向き直った。
もう診療時間は終わってしまって。
待合室には二人だけだった。
シンとした空気とシューっと加湿器が稼働している音だけが響く。
「真緒さんが。ぼくのことを・・どう思っているかわからないのですが、」
初音は前を向きながら神妙に話し始めた。
「え、」
ドキっとした。
「ぼくは。いい人でもデキた人でもなんでもないんですよ。計算高くて自分本位で。意気地なしで、頑固で。どうしようもない人間なんです、」
彼の口からは意外な言葉が続いた。
「天音や・・赤星からどう言われているかわからないですけど。ぼくは。どうしようもない、ダメな人間なんです。」
真緒は
何か言わなくちゃ、と思いながらも何も言えなかった。
「社長や高原さんにも仕事を褒めてはいただけますが・・。人間として欠けているところばかりで。何もできないんですよ、」
彼の声が少し震えた。
「なんで。ピアスをプレゼントしたのかって・・昨日言いましたよね。」
「え、ええ・・」
「単純にお世話になっているお礼です。あなたがホクトのお嬢さんだから。何とか取り入ろうとか。そんな気持ちは本当に、ないです。優しくしてくれるって言ってましたけど。ぼくは真緒さんには何もしていない、」
名前目当てに近づいてきた人たちと彼が同じなんて絶対に思いたくなかった。
突然それを確かめたくなった。
何故かって。
彼のことが
すごくすごく
好きだから。
真緒は一気に気持ちがしぼんでいった。
「・・友情や恋がこの名前のせいでいくつも無くなっていきました。初音さんは・・そういう人たちとは違うって。そう思いたかったんです。だから・・あんなことを言ってしまって。」
ぽつりぽつりと言った。
「あなたを。信じたかったんです。・・変なこと言ってごめんなさい、」
開きかけた扉が閉じた音がした。
自己肯定感の低さを吐露する初音。真緒は自分の気持ちを膨らませていいかどうかを悩みます・・
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