真緒を部屋まで送って、初音は本日分の資料をパソコンでまとめ始めた。
手だけが動いて頭は全く違うことを考えている。
ずっと。
あのピアスを見つけた時、単純に彼女にプレゼントをしたいと思った。
彼女の耳に揺れる星のピアスが頭の中に画として浮かんだ。
似合いそうだなと思った。
風太や天音が気を回して色々仕掛けてきているのは気づいているけれど。
自分の気持ちくらい自分が一番わかってる。
彼女と元夫の離婚のいきさつを彼女の口から聞いた時から。
自分に一番腑に落ちる思いが沸きあがっていることを。
あなたに似合うと思ったんですよ。
本当はたったそれだけだったのに。
この言葉がどうしても言えなかった。
「いたたた・・」
一方真緒の方は。
だんだん脚が腫れてきた。
そして
おなかがグーっと鳴る。
・・おなか。すいた・・
と思っていた時、ノックの音がした。
「・・はい、」
片足で何とかドアまで行った。
「あ。野々村です。」
その声に施錠を解いた。
初音はキャスターに夕食を運んできた。
「え、食事・・?」
「おなか。空いたでしょう。スタッフさんにお願いして作ってもらいました。ルームサービスにしようかと思ったんですけど、まだちょっと時間が早かったので。無理を言って作ってもらいました。今日なんだかんだで昼食も採れなかったし、」
部屋の中までキャスターを押して、小さなテーブルをセッティングした。
「あ、ありがとうございます・・いや、まだそんなにお腹もすいてなかったんですけど、」
と強がった後に
ぐーーーーー
美味しそうな食事を見てしまったのでお腹が思いっきり鳴ってしまった。
慌ててお腹を押さえたが
「・・聴こえないフリした方がいいですかね。この場合。」
初音は笑いを堪えていた。
「や。もう好きなだけ笑ってもらっていいです・・」
穴があったら入りたかった。
「・・NCのホテルだから。無理も聞いてくれたんですかね、」
真緒は思わずそう言ってしまう。
初音はふっと笑って
「いいじゃないですか。あなたがホクトの娘じゃなくても。ケガをしてるんですから。きっと聞いて下さいましたよ。NCはそういうホテルなんじゃないですか?」
皿をテーブルの上に乗せた。
「・・そっか、」
すごくすごく心が穏やかになった。
「美味しい!NCのホテルのレストラン、東京でしか食べたことなかったけど。どこでもこんなに美味しいのね、」
脚は痛んだものの食事の美味しさに真緒は一気に気持ちが上がった。
「ぼくはNCに泊まるのは初めてです。隅々まで心遣いが行き届いたいいホテルですね。食事も美味しいし。」
さっきの気まずさはなんだったのか、と思いたくなるほど自然に会話が弾んだ。
素直な気持ちが口にできない初音。真緒に『本当の自分』を口にしたことで気持ちが少しだけ軽くなり・・
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